西暦二千年六月九日。ヤフーオークションに驚くべき商品が出品された。
「タイムマシン売ります」
出品者はshikumi0氏。
商品案内には、「タイムマシンを開発しました。実用に耐えるものです。百ボルト家庭用電源で作動します。開発に五年、その費用は二千万円近くかかりました」と書かれていた。さらに扱いはシンプルだが、使い方を誤ると恐い思いをする、現実は"ドラいもん”のようにはいかないなどと書き添えられていた。
たくさんの質問が寄せられ、実際に入札する者も現れ、遂には十兆円という値がつけられたのだが……。
その後炎上状態になり、ヤフーにによって出品が削除されたと思っていたのだが、しばらくするとこのタイムマシンを落札したという人物が「タイムマシンをお譲りします」と出品したという。
さて、ここからが本題だ。
あの、落札したタイムマシンを譲るといって出品したのは私ではない。あれはたぶん偽物であり、悪戯だ。
現にいま、タイムマシンは私の部屋にあるのだから。それに私はまだそれを売りには出していないのだから。
とにかくあのタイムマシンは私が落札した。十兆円で。支払い方法は秘密だ。落札後、送金をした翌日、品物は届いた。誰かの質問に答えていたサイズ通りに、幅百五十二、奥行二百十五、高さ百五十センチのモノが入る大きさの段ボール箱が木枠で補強されて送られてきた。なんせ約二百キロの重みがあるのだ。
私は早速箱を開いて、リビングにタイムマシンを取り出し、添付されていた取り扱い説明書に目を通した。操作はいかにもシンプルで簡単だった。操作盤についている不思議なデザインの装置にダイヤル状のものがあり、それをくりくり動かして行き先の年月日時刻を指定した後に金色のボタンを押すだけだった。
気がつくと私は、同じ自室にいた。
私はタイムマシンが届く前日にセットしてボタンを押したのだ。幸い一日前の私は不在だったので私は旨を撫でおろした。なぜなら、取扱説明書に書いてあったからだ。
「決して過去や未来の自分自身と出会ってはいけない。もしそんなことをしてしまうと、タイムパラドックスが起きて、世界が消えてしまうかもしれない」
恐ろしい。ほんとうに迂闊だった。使い方を誤ると恐い思いをする、とはこのことだったのだ。私はとりあえず次の移動をしようと考えた。自分が生まれる前なら安心だ。そこで自分の年齢に一年を加えた年月だけ遡ってみた。
しかしそこでも私はうかうかと通りを歩いたりはできないのだ。なぜなら取り扱い説明書に書いてあったからだ。
「決して歴史上怒らなかったことをしてはいけない。そんなことをすれば時の流れが変わり、歴史が変化して、あなた自身がこの世に存在しなくなる可能性が高まる。あなたが存在しないことになってしまうと、あなたはタイムマシンを動かさなかったことになり、結果、タイムパラドックスが起きて世の中が消滅してしまうかもしれない」
そんな注意書きを思い出して私はまたぞっとしてしまった。
それから何度かいろいろな時間に飛んでみたが、いずれにしても誰からも身を隠して私やタイムマシンの存在を世間から隠さなければならなかったし、どこへ行くこともできなかった。歴史上にないどんなことをしでかしてしまうかわからないからだ。
結局私は「世界が消滅してしまう」恐怖と闘いながらタイムマシンを動かした挙句、こんなもの手元に置いていては恐ろしいばかりだと思う二至った。
取り扱い説明書の最後にはこう書いてあった。
「もし、このタイムマシンを手放したいと思ったなら、次の通りに行動すること」
そして私はその通りにした。
つまり、西暦二千年六月九日に戻り、ヤフーオークションに出品したのだ。それから数多く寄せられる質問に次々と答え、誰かが入札してくるのを待った。すると十兆円という値がつき落札された。
私は入金を待ち、振り込まれた十兆円を持って少し過去にさかのぼり、こっそりと落札者、つまり私自身の口座に振り込んだ。そうしないと私は十兆円もの金を送金することができないからだ。そしてその後、タイムマシンを梱包して私自身のマンションに送り出したのだ。
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