この世はますます貧富の差が広がっている格差社会である、と偉い人が言ってるらしい。トマ・ビスケットだかトーマス機関車だか知らないけれど、研究に研究を重ねた成果を発表した本が世界中で売れているんだと。
偉い人だかなんだか儂は知らんが、そんなこと俺は先から承知でい! この世は格差だらけだから嫌になってもう何十年なんだ、こっちは。
たとえば恋愛格差。どんなに頑張ったって彼女ができないんだよ。なんでそうなるかっていうのもだいたいわかっている。見た目だよ、ルックス。美貌格差っていうのかな。それとも儂が馬鹿だからかな。頭脳格差っていう。
肉体的にもあらあね。身長格差と体重格差。せめて神様、顔に格差があるのなら、この身長くらいはなんとかしてほしかったなぁ。まだあるぜ、健康格差と病気格差。子供の頃から身体が弱くってねぇ。その上歳をとってからは病気まで増えてきちまってよ。
数え上げればきりがないけどさ、儂なんて格差の百貨店みたいなもんだな。あらゆる格差のいちばん下、それが全部儂んところに集まってきてるんだね。まぁ、考えてみれば儂は人類の最底辺にいるってわけだな。
だが、ついこないだ裏の倉庫ですげえ壺見つけちゃって。ドロドロになってるのを磨いてみたらとんでもないのが現れた。
悪魔だよ。
「封印されていた我を呼び起こせし者よ、ひとつだけ願いを叶えてやろう」
そういうから、ちょ、ちょっと待ってくれって言ってやった。急に言われてもさ、願いなんてすぐには思いつかんもん。なんせ儂は頭脳格差の底辺の人間だからよ。そしたらそいつ、「では、願いを考え付いたらもう一度壺をこするがよい」と言ってまた壺の中に隠れやがったよ。
さぁ、儂は考えたね。夜寝るのも忘れて昼に寝てね。
頭脳格差の儂だが、凄いことを考えついたんだ。儂って最底辺の人間じゃあないか。だとすると、世の中の価値観をすべて真反対にひっくり返してもらったら……? どうなると思う?
そうなんだ。世の中が真反対になるってことは、最底辺にいる儂は最高位になるってわけだよ。バカな儂にだってそのくらいはわかるさ。見事な願いじゃないか。最底辺の人間が最高位になれるなんて。これで儂はすべての格差のトップに一躍……! ムフフのフだ。
さぁて、それでは今から悪魔を呼び出すとするか。
儂が壺をすすすっと磨くと、ドロドロドロンと例の悪魔が現れた。そこで儂は言った。
「あのさ、こないだお礼にひとつ願いを聞いてくれるって言ったよな!」
すると悪魔が答えた。
「ああ、言ったとも。いい願いを考えついたのかな?」
「当たり前だ。だからあんたを呼び出したんだよ」
「では、お前の願いを言うがよい。すぐに叶えてやるぞ」
儂は思わずほくそ笑んだ。
「うふふ、では言うぞ。この世の中の価値感を変えたいんだ。すっかりね」
「ほう、世の中の価値をな?」
「そうだよ。では儂の願いだ。世の中の価値を三百六十度ひっくり返せ!」
「わかった。それでいいんだな! では世の中の価値を三百六十度、ぐるぅり!」
悪魔が念じると、世の中の価値観がぐるりときれいに一回転して、元に戻った。
了
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