スポンサーリンク アサキオリジナル小説「追憶③」 第一話はこちら ◆3 「今だから言えるんですけど、僕も必至だったんですよ。遠藤さんのことは色々知りたいけど、入社して半年も経っていない若造がそんな話ばっかりしていたら、こいつ何考えて仕事しているんだよって思われるのが怖くて」 僕の軽口に先輩は薄く笑った。 「何を言ってるんだよ。今だってまだ3年も経っていない若造のくせに」 「間違いないです」 僕も薄く笑って答えた。 外の雨は一向に止む気配がなく、午後3時に差し掛かろうというこの時間帯は車の量も多いため目的地までの距離は対して縮められていなかった。 しかし、隣に座る先輩も僕の話に多少の面白みを感じてくれているのか、そのことには一切触れず、話の続きを促してくれた。 「だから先輩から遠藤さんがもう30歳目前だって聞いた時には、実はかなり動揺していたんですよ」 「覚えているよ。お前があんなに大きな声を出せるなんて、あの時に始めて知ったんだから。でもまあ、あの子が今年で三十路なんて信じられないよな」 フロントガラスに、ひたひたと打ち付ける雨の滴に目を向けながら、のんびりとした口調で先輩はこたえた。 「ええ。お蔭で僕はすっかり萎縮しちゃって」 信号が赤に変わった。僕はゆっくりと車を停止させ、サイドブレーキを引いてから話の続きを始めた。 ◆4 新人研修が終わってしまうと同時に、遠藤さんと社内で顔を合わせる機会も殆ど無くなってしまった。 それでも一週間に数回はエレベーターや社のフロントで偶然会うことがあり、その度に僕は額に薄らと汗をかきながらも、ぎこちない笑みを浮かべ世間話を交わした。 何度か食事に誘うことも考えたが、6つ上の女性は僕にとって凄く大人の印象があり、僕みたいなガキの男に誘われても困るのでは、と考えてしまうと、どうしてもその一歩を踏み出すことが出来ないでいた。 営業部に配属されると、最初は慣れないことの連続で、緊張の日々が続くうちに月日があっという間に過ぎて行った。気が付くと夏が来て、その夏が終わったかと思うころにはもう年末を迎える、といった具合に時間の経過がとにかく早く感じた。 なんとか年末も乗り越え、仕事も徐々に一人で任されるようになった1月の下旬に思いがけないチャンスが到来した。 それは同じ部署で最も久しくしてもらっている3つ上の先輩、河内さんからの一通のメールで始まった。 スポンサーリンク
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