『アメリカに渡った日本文化』 寺澤行忠 2013/07 著者は慶應義塾大学名誉教授・文学博士。 茶道・マンガから宗教までアメリカにおける日本文化の広がりをまとめた本。 茶道では裏千家の千玄室が多数の英文による著作などで、茶道の国際的普及に尽力した。裏千家は海外34ヶ国104ヶ所に拠点を持つ。日本庭園・茶室・茶道がセットになってアメリカ各地に作られている。 世界的に若者が日本に関心を向けるきっかけとなるのは、圧倒的にアニメとマンガである。大学での日本学も、まずマンガから入る。ただ最近の傾向として、アニメ・マンガともに市場が縮小している。アメリカも海賊版王国で、著作権の問題をしっかりやってもらいたいと述べる。 アメリカには日本食レストランが1万4千軒(2010年)ある。5年前の1.5倍という伸び率で、この伸びは当分続くという。日本人の少ない内陸部では日本食レストランがまだ少ない。ニューヨークでは値の張るラーメン店が活況である一方、スーパーではインスタントラーメンが8個1㌦で売られている。 アメリカには多数の日本美術品を所蔵する美術館がある。ボストン美術館は日本国外で最も優れた内容を持つ美術館の一つである。美術品の収集に尽力したのはモース、フェノロサ、岡倉天心など。「吉備大臣入唐絵巻」「平治物語絵巻」などを所蔵する。 アメリカにおける日本の宗教は、ほとんど仏教である。これは布教のためではなく、現地で死んだ日本人の葬儀のために寺と僧侶が必要だったことが発端となっているためだ。そこに禅宗の鈴木大拙が登場する。1897年に渡米、仏教の西洋への紹介に尽力した。現在アメリカには200の禅センターがある。浄土系仏教がアメリカ社会に容易に浸透しない中で、禅のような身体を使う修行の形態やメディテーションが好まれている。 禅と結びついた俳句も、物質文明とは異なる精神世界として受け容れられた。 太平洋戦争勃発時点では、日本語の読み書きができるアメリカ人は50人くらいだった。戦争時に大量の日本専門家が作られた。ドナルド・キーン氏は米海軍日本語学校で日本語を学んだ1人。戦後70年代~80年代までは日本学が盛んだった。しかしかつて多くいた知日派の人々の引退が近付いているのに後継者が育っていないという。
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