評価:★★★
名探偵・二階堂蘭子と天才的犯罪者・ラビリンスとの対決を描く
ラビリンス・シリーズ(と勝手に私が呼んでる)の3作目。
「明智小五郎vs怪人二十面相」をモチーフにしているのだろうけど
それと引き替えというわけではないかも知れないが、
本来の二階堂蘭子ものとはかなり色合いが異なる。
前作(とは言っても、時系列的にはこの「双面獣事件」とほぼ同時並行的に起こった)
「魔術王事件」の時にも、「犯人当て」の要素がかなり薄く、
それよりは犯人が引き起こす凄絶な殺人劇の描写に重きを置いていた。
この作品に至っては犯人当て要素は、ほぼ無きに等しく、
奄美~沖縄あたりの南海の島々を舞台に、
ひたすら「双面獣」という存在の異様さ、おぞましさ、
そして「双面獣」が生み出された時代の異常さが、えんえんと描かれていく。
上下巻合わせて、文庫で1100ページくらいあるんだけど
ミステリを読み終わったときの「爽快さ」というか「腑に落ちる」感はほぼ皆無。
じゃあつまらなかったのかと言えばそうでもない。
解説で北原尚彦氏が書いているんだけど、
この作品は「明智小五郎vs怪人二十面相」というよりは
横溝正史の「怪獣男爵」や海野十三の空想科学小説に近い、という説明には
なるほど、と思ってしまった。
海野十三は読んだことはないんだが、
「怪獣男爵」は中学の頃あたりに読んだことがある。
とても怖い話(今から思えば立派なホラー小説)だったんだけど
それなりに結構面白く読んだ記憶がある。
わたしはもともとホラーは苦手な人間なんだが
「双面獣事件」も、それなりに楽しく(?)というか
大長編にもかかわらず、最後まで飽きずに読めた。
ミステリと思うと違和感ありまくりなんだが、ホラーSFと思えばしっくりくる。
「怪獣男爵」や海野十三が分からない人なら、
「怪奇大作戦」や「ウルトラQ」の路線に近い、って言えば分かるだろうか。
(ちょっとたとえが古すぎる気もするなあ。
リアルタイムで見てた人はもう50代だろうしなあ。)
二階堂蘭子嬢は相変わらず、華麗なる活躍をされるので
それだけでも読む価値はある。
ラビリンスとの対決はまだ終わらず、
次作(「覇王の死」だったかな?)に続くようなので、
また文庫になるのを待ちたいと思う。