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青春は美わし

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キーワードは夏休み、帰郷、恋、花火。今の時期に読むにはちょうどいいヘッセ(Hermann Hesse, 1877-1962)の短編小説です。 主人公「私」が故郷を出てから数年経っていました。少年から青年となり、いくらかの成功を収めに汽車で帰郷します。よくやったという自負と、久しぶりに帰ることの後ろめたさを抱えているように感じました。母親とおばとの会話で、私生活のことについて聞かれたりしますが、それを「私」は試験だといいます。確かに社会的に成功して、故郷の人たちもおおむねよく迎えてくれる。ただ、どこか後ろめたさもあるようです。 「デミアン」では陰と陽がはっきりとしたテーマになりますが、ここでは陽の世界がほとんどで、陰の世界はあまり語られないのも気楽に読める作品であります。 「私」は美しい自然の中で夏休みを過ごします。ヘッセの作品で好きなところは、少年時代の描写が多くの草木や山川といった自然の中に溶け込むように語られるところです。たとえば、深夜に父親の家をこっそり抜け出して、裸になって川で泳ぎ、ぬれたまま帰るシーンがあります。このときに深夜の川沿いを一人で歩いたり、泳いだりするところの叙情的な雰囲気が好きなのです。より正確に言えば、高橋健二訳の文章が好きなのですが。 「私」は妹の女友達アンナに恋をします。故郷での最後の日、「私」は自分の気持ちを打ち明けようとしますが、アンナにその告白さえ止められてしまいます。友達でいましょう、楽しくしましょうといわれます。「私」は故郷の最後の日を告白のみじめさで終わらないようにしてくれたアンナに感謝します。 最後、汽車で帰るときに「私」の弟フリッツが手作りの花火を打ち上げます。「私はからだを乗り出して、 花火があがって、空中で止まり、柔らかい弓形を描いて、赤い火花の雨となって消えるのを見た。」で作品は終わります。青春時代が美しかったと思い出せること、どんなになっても迎えてくれる故郷に郷愁を抱き、時たま帰って観想にふけるのも美しいものだと思いました。 巻末のあとがきによると、「青春は美(うる)わし(Schön ist die Jugend)」は1916年発表で、1930年修正版発表とのことです。40歳くらいでこのようなテーマの作品が書けたヘッセには、ずうっと若い感性があり続けたのだと感じました。 青春は美わし (新潮文庫)


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