![モサド・ファイル――イスラエル最強スパイ列伝 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫) モサド・ファイル――イスラエル最強スパイ列伝 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)]()
イスラエルの情報機関モサド、そのメンバーたちの数々の暗躍をまとめた本。
元ナチス親衛隊のアドルフ・アイヒマン追跡作戦について知りたかったので読んでみたのだが、読み始めたら他のテーマについてもたくさん書かれていて、そちらの方も面白かった。テロリストの暗殺、シリア原子炉の破壊、国外からイスラエルへ移住するユダヤ人の保護、スパイを捕まえる作戦など、モサドの活動を幅広く網羅した内容で興味は尽きない。
1章ごとに語られているテーマが変わるのだが、どの章をとってみてもまるまる1本のスパイ映画が作られそうな内容の濃さ。世界の裏側ではこんなにきな臭いことが次々に起こっているのかということが分かって、思わず圧倒されてしまう。
とくに興味深かったのをいくつか挙げてみる。
第2章「テヘランの葬儀」は対イラン作戦について書かれた章。2004年、パキスタンの核兵器計画の長であるカーン博士が、ひそかにその技術やウラン濃縮のための遠心分離機をイランに売ったことが判明する。この情報を受けて、モサドは数々の対イラン作戦を遂行。核開発に関わる科学者たちが次々に暗殺される事件が起こったり、イランの核関連施設が爆破されたり、サイバー攻撃の対象となったりした。モサドは対外情報機関といっても、情報を集めるだけでなくて、破壊活動や暗殺の連続で、ここまでやる組織なんだなということがわかる内容だ。
第6章「アイヒマンを連れてこい!」はアドルフ・アイヒマン誘拐計画。アイヒマンは元ナチスのSS中佐で、大勢のユダヤ人虐殺に関わっていた人物。だが、戦争が終わると名前を変えてドイツ国外に逃れて、その行方をくらましてしまっていた。モサドはアイヒマンがアルゼンチンに潜伏しているとの情報を得て、アイヒマン追跡に動く。直接アルゼンチン政府に訴えかけたのでは、アイヒマンに逃げられてしまう可能性もあるということで、隠密に拉致してイスラエルに連れていく計画だ。監視活動であったり、変装しての脱出だったり、スパイ小説を地で行くようなエピソードが満載で、現実の諜報活動の何たるかが見えてきて興味深かった。
第17章「アンマンの大失態」はモサドの失敗談が描かれている。ヨルダン国内にいるハマスのメンバーを暗殺する計画がもちあがり、綿密な計画が練り上げられる。だが、不測の事態が持ち上がり、暗殺計画は思わぬ方向にそれていってしまい、モサドは大失態を演じることに……。
第21章「シバの女王の国から」はエチオピアの大勢のユダヤ人たちをイスラエルに移住させる大計画。国外移住が禁じられた国からどうやって大勢の人間を移住させるのか、その脱出計画が機知に富んでいて面白い。本書に書かれているのはほとんど暗殺とか破壊活動とかであるが、この章だけは人を殺さない作戦というのも珍しかった。
この本を読むと、中東というのは本当に戦争の火種が絶えないところなんだなあということが見えてくるし、イスラエルが周辺各国にスパイ網を隅々まで広げていることも知ることができる。複雑な国際社会の一端を、イスラエルの視点から垣間見ることのできる興味深い一冊だった。