「応用言語学」とは「現実社会の問題解決に直接貢献するような言語学」と定義されるが、そもそも人間の行う営みの殆ど全てが言葉と密接に関係しているわけで、当然その守備範囲は広い。
その対象の幾つか大きなテーマが各章でわかりやすく説明されている。が、概観しての要点のみの紹介なので、正直言って深みは無い。(興味を持ったらそれぞれの専門書に、と文献リストはちゃんとしている。)あくまでも「入門」なのである。総じて新しい知見というほどではなく、この方面のよく整理されたガイドといった印象だが、それぞれがとても興味深い内容なので、面白く読めた。既知の項目も多かったが、中には「目から鱗」の話もたくさんあった。 では各章の内容を以下に細密圧縮充填リストで。 1 標準語と方言●政治的問題●権力支配効率化のための標準化●方言への差別●方言は平等●方言と標準語との境界の曖昧さ●方言保存の必要性
2 国家と言語―言語政策
●コーパス計画●方言撲滅運動●モノリンガル主義●危機言語の保護
3 バイリンガルは悪か?
●母語に悪影響は及ぼさない●脳のリソースの奪い合いはない●言語知識の共有がなされる●認知的優位性がある●モノリンガル人間の方が世界的には少数派
4 外国語教育
●第二言語習得学(SLA)という学問、学習者のデータを教育学・心理学・社会学・文化人類学などの方法で研究●インプットを聴いて意味を理解することが言語習得の本質●「正しさ」至上主義の呪縛で消極的になり上達できない●英語帝国主義●英語非ネイティブ同士の国際コミュニケーション言語としての英語の存在意義●〈日本英語〉で可とばかりは言えない。発音が通じない問題●アラビア語を学ぶイスラエルの子供はより平和的になっている
5 手話という言語
●手話は自然言語である●音声言語と別に生成発展●各国で全く違う●手話でも高度に複雑な会話は可能●日本語手話は日本語と文法が異なる●日本語対応手話は自然言語ではなく音声を手話で逐語的に表現●手話を幼少時から母語として獲得することの重要性
6 言語と文化
●言葉が思考を決定する●主語を言わぬ日本語―動作主体が曖昧、主体を推測●日本人の子供は〈心の理論〉の発達が早い●ハイコンテキスト=空気を読む文化●敬語の変化、対象言語(尊敬語、謙譲語)の衰退●英語話せても日本的以心伝心は駄目●ステレオタイプ(=先入観)は差別問題を含む。予断の元●男は会話で問題解決志向かつ競争意識、女は会話を楽しむ傾向=ジェンダーギャップ
7 無意識への働きかけ―政治・メディアのことば
●メタファーの利便性(理解の助け)→真実を偏った見方で捉える弊害●報道の偏りの問題●言わないことで隠蔽●「除染」はまやかし「移染」とすべき●言語は強制的に範疇化する●〈カテゴリー〉の不完全性●プライミング効果―先行刺激が後の反応に無意識に影響を与える●世論調査でのサンプルの偏り●相関関係と因果関係の混同
8 法と言語
●犯罪捜査での方言による犯人像推定●方言の真似は非常に困難●法律文の難解さの問題―誘導の入り込む可能性●目撃証言も誘導されやすい
9 言語障害
●ディスレクシア(文字が読めない、知能は正常)●自閉症児とバイリンガル→問題なし●知識の二重構造。宣言的知識(何かを説明できる)と手続き的知識(例:靴紐の結び方)ボケると前者が駄目になる●高齢認知症でも手続き的知識としての言語能力は残る(一見普通に喋る)
10 言語情報処理はどこまで来たか
●機械翻訳の進展●音声認識、Siriの仕組み●ディープブルー(チェス)、ワトソン(クイズ番組優勝)●AIの開発困難さ、未だ人間の知性は持てず、表面的●テキスト読み上げソフトなど、障害者への恩恵