オリヴァー・サックス/著 大田直子/訳
出版社名 : 早川書房
出版年月 : 2014年10月
ISBNコード : 978-4-15-209496-4
税込価格 : 2,484円
頁数・縦 : 379p・20㎝
幻視、幻聴、幻肢など、幻覚がなぜ起こるのか、どのような症状として現れるのか、著者の下に届いた手紙での報告や、さまざまな書物から集めた実例とともに解説する。
人間の幻覚にこれほど沢山の症状があるのか、ということに驚かされる。
【目次】
静かな群衆―シャルル・ボネ症候群
囚人の映画―感覚遮断
数ナノグラムのワイン―においの幻覚
幻を聞く
パーキンソン症候群の錯覚
変容状態
模様―目に見える片頭痛
「聖なる」病
両断―半視野の幻覚
譫妄
眠りと目覚めのはざま
居眠り病と鬼婆
取りつかれた心
ドッペルゲンガー―自分自身の幻
幻肢、影、感覚のゴースト
【著者】
サックス,オリヴァー (Sacks, Oliver)
医師として活躍するかたわら、『レナードの朝』(アカデミー賞を受賞した同名映画の原作)を初めとする12冊の著書を持つ作家。ニューヨーク大学医学部教授。
大田 直子 (オオタ ナオコ)
翻訳家。東京大学文学部社会心理学科卒。
【抜書】
●シャルル・ボネ症候群(p17)
シャルル・ボネ症候群(CBS)……視覚のすべてもしくは一部を失った人が見る幻覚。脳の「視覚器官」が、感覚を利用できなくなったことにより、記憶を利用して行われる行動。
CBSは、1990年以前は稀なものと考えられていた。大半の症例は、初歩レベルの単純な色やパターンにとどまっているため、医師に報告しなかったのだろう。
CBS患者の大半は、自分が幻覚を見ていることに気付く。
シャルル・ボネ……18世紀スイスの博物学者。昆虫学からポリプなど微小動物の生殖と再生まで、幅広い研究を行った。〔目の病気のせいで最愛の顕微鏡を使えなくなると、植物学に転向して光合成についての先駆的実験を行い、そのあと心理学へ、そして最終的に哲学へと転じた。祖父のシャルル・リュランが視力の衰えとともに「幻」を見るようになったと聞いたボネは、詳しい説明を口述してくれと頼んだ。〕『心の機能に関する分析』(1760年)に、リュランの経験を簡単に説明。
●音楽幻聴(p93)
CBSの幻視と音楽幻聴は、生理学的には似ているが、現象学的には大きな違いがある。
CBSの幻視……見たものを思い出したり、想像する場合、〔私たちは、すでにでき上った組み立て済みの視覚世界を与えられるわけではなく、自分自身の視覚世界をできるだけうまく構築しなければならない。それを構築するには、後頭葉皮質での線と角度と方向の知覚から始まって、脳のさまざまな機能レベルで分析と合成を行なう必要がある。もっと高いレベルになる下部側頭葉皮質では、視覚を構成する「要素」はもっと複雑で、自然の光景、物体、動植物、文字、顔などの、分析と認識にふさわしいものになる。複雑な幻視にはそのような要素の統合、すなわち組み合わせ作業が必要であり、その組み合わせはつねに順序が変わり、バラバラになり、組み立て直されている。〕
音楽幻聴……〔音楽の場合、音の高さ、音色、リズムなどを知覚するための別々の機能を果たすシステムがあるが、脳の音楽ネットワークは協調していて、曲のメロディーラインやテンポが大きく変わると、音楽としてのアイデンティティが失われてしまう。私たちは音楽作品を全体として理解する。音楽を知覚し記憶する最初のプロセスがどうであるにしても、いったん知られた楽曲は、個々の要素の組み合わせとしてではなく、完成された流れ、またはパフォーマンスとして、心にとどまるのだ。心や脳が音楽を思い出すときは必ず、心や脳によって演奏される。耳の虫としてであれ、幻覚としてであれ、無意識のうちに音楽がなるときも同じである。〕
●聖なる病(p163)
癲癇は、ヒポクラテスの時代には、聖なる病、神の啓示による障害とされていた。しかし、彼は、「聖なる病について」において、「聖なる病と呼ばれる病気は……私には、ほかの病気と同様に神聖ではなく、ほかの疾患と同様、発端となる自然の原因があるように思える」と書いた。
癲癇は、突然始まり(特徴的な前駆症状や前兆がある場合もある)、脳内における突然の異常放電によって起こる。
全身発作では、放電が脳の左右両半球で同時に起こる。脳の先天的な遺伝的感受性から起こる。
小発作(部分発作)では、一時だけの意識喪失が起こる。数秒間の「放心状態」。本人や周囲の人間に気付かれないまま、会話やチェスを続ける場合もある。脳の一部の、損傷がある領域や敏感な領域から起こる。⇒癲癇焦点
癲癇焦点……生まれつき、怪我などによってできる。
部分発作……焦点の場所によってさまざま。脳活動は、癲癇焦点に限定される場合も、ほかの部位に広がる場合もある。ときには全身痙攣につながる。
・運動発作……特定の筋肉が痙攣
・自律神経発作……吐き気、胃の中のものが上がってくる感じなど
・感覚発作……視覚、聴覚、嗅覚などの異常や幻視
・精神発作……明らかな原因のない突然の叫びや恐怖、既視観や未視観、突発的でたいていは異常な一連の考え
●神経系の階層(p165)
「イギリスの神経学の父」ヒューリングス・ジャクソン。
〔人間の神経系はより高いレベルへと進化していき、それが階層的に組織化されていて、高次の中枢が低次の中枢を抑制している〕。そのため、高次の中枢の損傷によって低次の中枢の活動が「開放される」可能性がある。
●側頭葉癲癇焦点(p187)
恍惚発作……癲癇症状の前兆として現れる。深く心を動かされ、恍惚発作を積極的に求めるようになり、人格に変化がもたらされる。 ⇒ 発作間人格症候群(ゲシュウィンド症候群)
発作間人格症候群……患者はしばしば、「異常に強い宗教心」を示す。宗教的な恍惚状態。
恍惚発作は、側頭葉癲癇焦点の発作活動と同時に発生する。
●カタプレキシー(p261)
ナルコレプシー……居眠り病。睡眠発作。
カタプレキシー……「起立不能」の発作。筋肉の力と緊張が突然失われる。ナルコレプシーにともなって、悲しみや喜びなどの強い感情によって起きる。
睡眠麻痺……突然の睡眠発作とカタプレキシーとともに麻痺を起こし、話したり動いたりすることができなくなる。鮮明な幻覚も現れる。ナルコレプシー症候群の構成要素とみなされている。
ナルコレプシーは、視床下部に欠損や損傷が認められる。視床下部は、「覚醒状態」ホルモンであるオレキシンを分泌している。
●臨死体験(p310)
臨死体験に共通の経験……暗いトンネルに引き込まれたあと、まぶしい輝きを見る。最後に行く手に境界や壁を感じる。大きな安らぎと喜びに満ちている。
臨死体験は、心停止と関連があり、血圧が急に低下し、顔が青白くなり、頭と脳から血が引いて失神したときにも起こることがある。
脳血流が減少すると、意識の解離が起こる。目覚めていても体が麻痺し、レム睡眠に特有の夢のような幻覚(レム侵入)に襲われる。つまり、睡眠麻痺に似た状態になる。
「暗いトンネル」は、網膜への血流障害。血流障害により、トンネル視と呼ばれる視野狭窄が生じる。ケンタッキー大学のケヴィン・ネルソンによる。
「明るい光」は、脳幹の一部(脳橋)から皮質下の視覚中継局へ、そして後頭皮質へと移動する神経興奮の流れと関連する。同上。
●ホートスコピー(p315)
ホートスコピー(heautoscopy)……本人と分身との間に相互交流のある自己像幻視。敵対的なことのほうが多い。自己意識が一方から他方へ移る傾向があるので、どちらが本物か、混乱を起こす場合もある。
(2015/2/7)KG
〈この本の詳細〉
honto: http://honto.jp/netstore/pd-book_26383028.html
e-hon: http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000033170230






