『人と馬の防具の歴史、そして、戦闘の文化史』
序章で、筆者は「防具、すなわち甲冑とは、敵の武器がもたらす効力から戦士の身を守る装備の全構成要素」と定義したうえで、「本書は甲冑の歴史を紹介する包括的なガイドブックである。火気がまだ誕生していなかったおかげで甲冑が支配的役割を果たし、それゆえ価値ある工芸品となることが多かった時代を中心に取り上げている。また、世界のさまざまな地域で戦争の仕方がどのように発展したか、その時代の慣習や技術力がどのようにして甲冑のバラエティに富んだユニークな構造を生み出し、個々の文化の複雑性を象徴する存在になっていったかについても紹介していく」と述べる。
章立ては第1から第8までで、目次は以下のとおり
1章:古代世界の防具ーヘパイストスの仕事場から
*青銅製防具の誕生*エジプト新王朝時代*ペルシアの「不死隊」*ホメロスの描写から*ミュケナイの兵士たち*古代ギリシャの軍隊*古代ギリシャの防具と技術*マケドニア軍の兵*古代ローマの軍隊*ケルト人の戦いと装備*帝政期ローマ*サルマティア人との戦い
2章:ゲルマン人と東ローマ帝国の時代
*帝国の崩壊*ゲルマン人の軍装*蛮族の影響*兜の発達*鎧*薄片鎧と小札鎧*盾*フランク王国の拡大*フランク王国の兵士と装備*アヴェール人とスラブ人*イギリス諸島と北欧諸国*スカンディナヴィア人の動勢*ヴァイキングの防具
3章:中世ヨーロッパの騎士ー甲冑・武具の黄金時代
*11〜12世紀の重装騎兵*騎士の黄金時代*素材と加工技術*プレートによる保護*脚当ての改良と兜*剣と槍の発達*ミラノとニュルンベルクの甲冑*トーナメント用とマクシミリアン式*時代の新たな要求
4章:甲冑師の技の極み
*変容する甲冑の役割*戦場から宮廷へ*完璧な甲冑*イタリアの名工*ニュルンベルクで生まれた一級品*アウクスブルクの甲冑師*インスブルックの甲冑師*ランツフートの甲冑師*グリニッジの工房*構造とパーツ*コスチューム式甲冑*16世紀の加工と装飾*意匠における新しい潮流*胸甲騎兵の甲冑*歩兵の防具
5章:中央ヨーロッパとロシア
*ヨーロッパと東洋の狭間で*ハンガリーの防具*ポーランドの防具*フザールの防具とその特徴*カラツェナとパンツェルニック*美しき重装騎兵*キエフ・ロシアと家臣団*11世紀ロシアの防具*12〜13世紀のロシアの防具*14世紀ロシア、軍装の変化*15〜17世紀ロシアの防具
6章:バルカン諸国からインドまで
*オリエントの防具技術*ペルシアの役割*チュルク系遊牧民*急速に拡大したモンゴル帝国*大草原で鍛えられた戦士*モンゴル軍の戦略と実態*騎兵と戦術*中央アジアの独特な防具*5つの基本要素*地域的特性とインドの防具*トルコ族による支配*オスマン朝独立*オスマン・トルコの版図拡大*オスマン軍の構成と装備*鎧と兜
7章:東南アジアの武具
*土地と文化の伝統*殷王朝時代*周・春秋・戦国時代*漢の時代*三国時代*唐の時代*宋の時代*元の時代*明の時代*清の時代*皇帝による法令*日本における甲冑の発達*短甲と挂甲*武士と甲冑*鎧の構造と装飾*胴丸と腹巻*軽装歩兵部隊*信長と火縄銃*当世具足*極東地域における防具
8章:近代から現代へー歴史は動く
*大量生産の時代*歩兵隊の軍装*騎兵隊の装備*火器による攻撃からの防御*世界大戦以降
質感ゆたかなイラストに富み、古代の公文書、文学、美術作品からとられた挿絵等が多く掲載されているのは「図鑑」であるから当然だが、古代からの歩兵、騎兵による戦闘の文化史としての記述もたいへん読みごたえがある。
少々残念なのは、(1)記述に対応する図版がどこにあるかを捜さねばならないことがままあること(2)索引が備えられているが、十全ではないこと。たとえば、「鐙(あぶみ)」に関する興味深い論議が随所にあるのに、索引中に立項されていないこと。
しかし、多少残念な点はあるにしても、総合的にたいへん充実した図鑑であり、価額に見合った著作であることは間違いない。
↧






