彼らの母は、子供達の社交場である駄菓子屋や紙芝居で買い食いするなどは『非行の始まりだ』と、ことの他うるさかった。
だから、着色料満点で色鮮やかな駄菓子は、愛情がたっぷりこもった、安全で美味しい手作りのおやつなんかとは比較にならない程、魅惑的な存在だった。
梅ジャムせんべい。向こう側が透けるくらいの薄焼きミルクせんべいを10枚程重ねた上に、こんもりと梅干し風味のジャムがのる。
紙芝居を見ながら、下からせんべいを一枚ずつはがしては、ちびちびと上のジャムをつて食べる。二人の一番のお気に入りだ。
「わ、わかったよ」 ユウタは困った様にボソッと言う。でも、そう易々と諦めるユウタではなかった。 一瞬上目使いで空を見かと思うと、今度は薄気味悪くニャリと笑いひとりでうなずく。
「ユウちゃん早く、紙芝居終わっちゃうよ」 ひたすら新車を研いていた少年も、さすがに待ちくたびれたみたいだ。
「てっちゃんごめんね。先に行っててくれるかな?すぐに後を追いかけるからさ」 ユウタは、リカに聞こえないように耳打ちした。 <つづく>
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