評判の新作劇を上演中の劇場の観客席で嫌われ者の弁護士が殺された。現場から消え失せた被害者のシルクハットをめぐる謎に、ニューヨーク市警のリチャード・クイーン警視とその息子エラリーが挑む。
パズルで遊ぶ人ならわかっていただけると思うのですが、出来の良い数独を解いたときのような気持ちになりました。きっちり手がかりを並べて、事件そのものをがっつり掘り下げて推理を重ねて真相に至る、まさに現代の本格ミステリのお手本と呼びたい小説です。
今どきそんな意見はないと思うんですけれども、ミステリは犯罪みたいな低俗なテーマを扱う娯楽小説だとかの陰口があったとしたら、この本1冊持ち出すだけで十分に立ち向かえるんじゃないかと思いますよ。これはもう、どこに出しても恥ずかしくない知的な大人の読み物です、はい。
本書はミステリ作家エラリー・クイーンのデビュー作で、つまり警視と探偵のクイーン父子が初めて登場した作品でもあります。そこで初めて知ったんですけれども、”リチャード・クイーン”も”エラリー・クイーン”も彼らの本名ではなく、小説として発表するために付けられた仮名だったんですね。
「この作品は現実に起きた事件を題材にしているが、関係者に配慮して全ての登場人物や地名は架空のものにしています」という申し訳程度の実話感は古いミステリには割と見かけるので、何だか懐かしくなりました。これからクイーン父子の作品を読む目がちょっと変わりそうです。
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