吉野弘さんの 詩。
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『 閉じた海 』
ラスカー・シューラーは
こう歌った。
「私の眼のうしろに 海がある
それをみんな 私は泣いてしまわなければ
ならない」と。
私は尋ねる。
くらしの合間は小出しに泣いて
「死」が訪れたとき 一挙に
海を泣きつくすのでしょうか 人は
海が干潟になるまで?
海が答える。
いいえ 海を泣きつくすまで
死に待ってもらう特権は 誰にもなくて
海は やはり
死者の眼のうしろに 残る筈。
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とても 印象深くて、ずっと 心に残っていた 詩。
眼のうしろの海、というのを 時々 思い出し 想像する。
例えば、その海には 光がなくて、とても暗いものだったりする。
ときには、澄んだ 藍色が イメージとして、広がったりもする。
くらしの合間は、小出しに泣いて
よるべない気分に 浸っていたから、小出しに泣く というのが
妙に しっくり 響いてくる。
かなしみには、おおきいもの と ちいさいものがあって、でも
ちいさかったとしても、それは やっぱり かなしくて。
私の 眼のうしろの海は、さわさわ 揺れているのだろう。
今日は この詩を 引用したくなった。
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