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第四百三十八話_short 初夢

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 年明け早々に見た夢を初夢というそうだが、厳密にはいつ見た嫁のことをいうのだろう。Wikiで調べてみると、大晦日から元旦の朝にかけて見る夢という説、元旦から二日の朝にかけて見る夢という説、二日から三日にかけて見る夢という説という三つの節があるという。が、おおよそ元旦から二日にかけて、もしくはその翌夜に見る夢のことをいうことがほとんどだということだ。

 だけれども、そんな慣習や理屈は実はどうでもよくって、年始早々には寝ざめのいい夢を見たいというのが万人の思うところだ。でも実際のところ、いい夢を見ようと張り切って眠っても、大晦日も元旦も美味しいお酒に明け暮れて疲れ果てて眠ってしまうからか、夢など見ないほどぐっすりと眠ってしまうか、あるいは記憶に残らないほどの夢であって目覚めたときには覚えていないなど、結局「いい初夢を見た!」などと誰かに話して聞かせるようなことは滅多にないものである。

 ささやかな願いではあるが、毎年年始にはそんな風に初夢のことを考え、できれば早々にはいい夢を見たいと願いながら床に就くわけだが、ついに今朝がたに素晴らしい初夢を見ることに成功した。

 それは実にリアルな夢で、富士も鷹も茄子も登場しないのだけれども、なにかとても幸福な夢であることはわかった。

 夢の中で私は、豪邸と言えるほどではないけれども、人並みに新しくきれいなマンションに妻や子供たちと共に住んでいて、平凡ではあるけれどもそこそこ恵まれた生活をしていた。大晦日には皆で年越し蕎麦を食べながらNHKの歌番組を見て、時計の針が零時を回ると遠くで鳴っている除夜の鐘を聞きながら皆で近所の神社に出かけた。いつの間にかとうに亡くなったはずの両親も合流していて、社の前で並んで手を合せた。

 翌朝には妻が揃えたお重の蓋を開けてその出来栄えを褒めながらいただき、子供たちと両親にはお年玉を渡した。そこで私は家族に訊ねるのだ。

 初夢は見たか?

 初詣から帰って眠りに就いたのは二時を回っていたので、みんな熟睡していて誰も夢を見ていないという。そこでほんとうンも初夢は今夜見る夢なのだと説明する。一富士二鷹三茄子などという古臭い縁起話よりも、夢見のいい夢ならなんでもいい、今夜は早めに眠って、ぜひともいい初夢を見ようじゃないか。そういってその日は早々にベッドに入った。

 私は夢を見たのか見なかったのか、いずれにしても昨日は静かで穏やかでいい元旦だったなぁと思いながら目覚めるのだが、これが夢だったのかどうかいまひとつ定かではない。なにしろあまりにも現実感のあり過ぎる夢で、いま目が覚めたのか、あるいはまだ夢の中にいるのかさえおぼつかない。

 だが、下手に理不尽で夢っぽい夢を見るよりはよほど平和でいいんじゃないか、ささやかでもこんなに幸せ感にあふれた気持ちにはなかなかなれないでいたのだから、そう思いながらベッドを出て、部屋を見渡す。静まり返った寝室に私一人。

 ははぁ、みんなもう早々に起きだしてテレビでも見ているんだな。廊下の先にあるリビングのドアの向こうには温かい雑煮が湯気を上げているに違いない。昨日食べ過ぎたせいかあまり腹が減っていない。 餅は一個でいいぞと言っておけばよかった。妻はそのあたりまでわかっているだろうか。そう思いながらまたまどろむ。

 そこで私はぼんやりと目を覚ます。 

                      了


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