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虚ろな十字架

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虚ろな十字架

虚ろな十字架

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2014/05/23
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 江東区木場の路上で殺害されたフリージャーナリストの女性――。それは中原道正の別れた妻小夜子だった。犯人はすぐに捕まった。金銭目的の犯行だったという。だが、中原の胸には何か釈然としない思いが去来する。単純に見える事件の背後に何か隠れた事実が潜んでいるのではないか? 中原は小夜子の足取りを追いかけながら、事件の真相に迫っていく。  久しぶりに東野圭吾を読んでみたら、相変わらず水準が高かった。  一見すると単純な事件なのに、主人公があれこれ探るうちに、徐々に今まで分からなかった事件の裏側が明らかになっていく。単純な事件に見せかけて実は……という展開のわくわく感。いろいろな登場人物の間に思わぬつながりも出てきたりして、ミステリーの醍醐味を存分に味わうことのできる内容。  過去の出来事が現代につながってくるという、東野圭吾の作品にありがちな展開も出てくる。何年も前の出来事がめぐりめぐって、新たな悲劇をもたらす。封印したはずの過去、忘れようとしていた記憶がふとしたきっかけでよみがえってしまって、現代に生きる登場人物たちに牙をむく。徐々に過去の出来事の全容が明らかになっていくところはなかなか迫力があった。  ミステリーとしてのエンターテイメントの面白さだけではなく、社会派として読んでも興味深い。死刑制度が事件にからんできて、死刑をめぐる議論が随所に出てくるのである。  悪いやつがいたらやっつけて、懲らしめてしまってめでたしめでたし……。そんな子供のヒーロー漫画みたいな単純な勧善懲悪でうまくいくのならいいが、現実にはそうはいかない。殺人犯を死刑にしたところで、被害者が帰ってくるわけでもなく、悲しみが癒えることはない。でも、犯人に処罰を与えて、犯人が二度と犯行をくり返さないようにすることが、遺族にとっての最大の目的にもなりうる。死刑制度や刑罰についてひそむ、様々な矛盾が描き出されている。  刑罰のシステムにはいろいろ理不尽な面があるのだなということが、読み進むうちに見えてくる内容。犯罪者が贖罪するということはどういうことなんだろう? 正義とは何なんだろう? という難しい疑問をつきつけられ、何か分かりやすい正解があるわけではないことに気づかされる。  推理ものであると同時に、こうした犯罪と刑罰をめぐる様々な矛盾自体が物語に取り込まれていて、ミステリーとして楽しいだけの作品に終わらない、重いテーマを抱えた作品になっていて読み応えがあった。

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