<裏表紙あらすじ>
華氏451度――この温度で書物の紙は引火し、そして燃える。451と刻印されたヘルメットをかぶり、昇火器の炎で隠匿されていた書物を焼き尽くす男たち。モンターグも自らの仕事に誇りを持つ、そうした昇火士(ファイアマン)のひとりだった。だがある晩、風変わりな少女とであってから、彼の人生は劇的に変わってゆく……。本が忌むべき禁制品となった未来を舞台に、SF界きっての抒情詩人が現代文明を鋭く風刺した不朽の名作、新訳で登場!
レイ・ブラッドベリの名作中の名作の新訳です。
旧訳も読んでいますがずいぶん前。ザックリとしたあらすじしか覚えておらず、ほとんど忘れちゃっていますね。
旧訳版は今手元にないので比較できないのですが、なんだかスリムになった印象。判型は、最近のハヤカワ文庫リニューアルの結果、少し大きくなっていますが。
訳者あとがきによれば、この新訳は四百枚に満たない一方、旧訳は五百三十枚もあったらしい。すごい差ですねぇ。
タイトルの華氏451度とは、扉に書かれている通り、「この温度で書物の紙は引火し、そして燃える」というところから来ています。摂氏でいうと約233度のようです by Wikipedia。
すごくシンプルでストレートな物語だったんですね。
最近のやたら長大な作品に馴れた目から見ると、このシンプルさはとてもすがすがしい。
あらすじに「現代文明を鋭く風刺した」とありますが、風刺の矛先についても、いろいろと考えることができるようになっています。
シンプルであるがゆえに、読者が想像を巡らせる余地も十分確保されていて、芭蕉ではありませんが「言ひおほせて何かある」といったところでしょうか。
書物が禁止されるということは、畢竟、文字も禁止されるということでもあるでしょうから、情報を受け取るだけの一般大衆はともかく、すべてを映像や音声で、というのは情報をあやつり、恣意的に与えるサイドである支配者層はかなり難渋するのではなかろうか、と余計なことを考えました。
最終章を読むと、一層その思いを強くしたりして。
こういうくだらないことを考えるのも読書の楽しみですねぇ。かように(?)、いろいろなことを考えたくなる作品です。
原書は1953年で、今から60年も前に書かれた作品ですが、書物が焼かれるということはないにせよ、かなり作中の様子には現代に近いところがあちこちにあり、レイ・ブラッドベリのイメージ力の確かさに驚きました。
原題:Farrenheit 451
作者:Ray Bradbury
刊行:1953年
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