前回は二人の職業軍人の辞世を評価できないとしてけなした。 今回は太平洋戦争で若い命を散らした人の歌だが、この一首は特に私の胸を打つ。 新しき光に生きんをさな子の 幸を祈りて我は散らなむ 作者は熊井常郎。慶応大学卒。海軍菊水三号第二正統隊員で階級は少尉。昭和二十年四月二十八日沖縄方面で艦船に特攻戦死。享年二十二。 やがて(この馬鹿馬鹿しい)戦争も終わるだろう。そして、やがて新しい命がこのこの国に生まれるだろう。その幼子たちの幸せを祈って、自分は散っていくのだという見事な覚悟を、静かにつぶやくように詠んでいる。 声高に戦争を賛美するのでもなく、母や家族への追慕を語るのでもなく、勇ましさを全面に押し出すのでもなく、甘美な感傷に浸るのでもない。この辞世の静かな語り口は、しかし、とても強く我々の胸に迫ってくる。 このような辞世を作らねばならない若者たちを生み出す戦争や紛争を、この世から無くしてしまいたいという希望は多くの人が持っているはずだ。それなのに、世界では未だに戦争や紛争、宗教や民族間の対立など危険な火種は散在するのだ。
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