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古市憲寿×小熊英二『真剣に話しましょう』①

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『真剣に話しましょう』①古市憲寿×小熊英二 真剣に話しましょう.jpg 先月発売された小熊英二の対談集『真剣に話しましょう』を読みました。対談「集」とあることから皆様お察しのように、対談相手が多いです。本書は、今回の記事の対談相手の古市憲寿氏を始め、東浩紀氏、上野千鶴子氏…と総勢12名の対談相手との12本の対談を集めた書籍となっています。一回ごとのテーマもかなり離れたものであるので、記事では対談一つ一つを要約していった方が焦点が絞れていいだろうと思い、このような形とさせていただきました。ということで12回シリーズの『真剣に話しましょう』要約第一回目の対談相手は現在29歳、対談時点でなんと26歳の若手論客、古市憲寿氏です。この対談は氏の著作『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)の刊行記念に行われたものです。 以下に本対談の内容をざっくり要約していきます。

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冒頭 小熊「『絶望の国の幸福な若者たち』は現代日本の若者の気分を敏感に捉えていて、著者の勘の良さを示してはいる。しかし、著者があらかじめ持っていた考え(何となく幸せな若者像)に当てはまるように雑な調査を安全な範囲でしただけであり、前著『希望難民御一行様』に劣る」 古市「確かに自分のリアリティを全面に出してしまった。アカデミズムとジャーナリズムの中間くらいの本である。しかし、若者が不幸という言説が溢れる現代において、「幸せな若者もいる」というリアリティを提示すること自体に、議論のきっかけとしての意味がある」 現代の若者 小熊「ポスト工業化社会への移行によって雇用の不安定性が増している。また、前時代からの傾向として企業と学校があまりに強固な場として機能してきたため、そこから外れると居場所がない。新卒一括採用によって敗者復活も不可能。こういう現状の中色々な所に集まる若者を古市氏は描いている」 ものが安く買えることの位置付け 古市氏の著作で、日本ではユニクロの服などが安く買えることが書かれていたことについて、 小熊「日本ではユニクロや東芝製品が安く買える。カンボジアなどでも同じ値段でそれらは売られているが、現地の収入レベルからすると意味合いが違い、中産階級のステータスである。だから日本の貧困層は一見すると貧困に見えない」 レジ打ちバイトでとりあえず幸せ型の人について 小熊「こういう人は30歳を超えるときつくなってくる。「レジ打ちバイトでもとりあえず幸せ」が30歳以降も続くことはなく、これが先進国型の貧困であるということが理解されてくるだろう」 古市「30代、40代までフリーター的な生き方を続けていくモデルはありえない?ヨーロッパではセーフティーネットを充実させてこのような人達を30代前半くらいまではフリーター型で生きていける社会を構築しようとしてきている」 小熊「雇用慣行が変わらなければ無理。一度非正規雇用に落ち込むと、正規雇用に上がれるチャンスが制度的にない。キャリアアップの展望がなければ非正規雇用でも働かざるを得ず、低賃金で働くので移民も入らない」 古市「大企業志向をなくせば(選ばなければ)正規雇用にあがれるチャンスはあるのでは?」 小熊「大卒に関してはそう。だが、大卒は半分強。残りの高卒は美容師やミュージシャンなどを目指すが現実は時給数百円の過酷な状況。20代~30代前半のピーク時に自分はこれから上昇し続けると、現実に反した夢を見てしまう」 「夢をみる」ことについて 古市「「夢を見ろ」発言を真に受けると社会的弱者になる可能性が高い?」 小熊「いまのところフリーターに将来のモデルはない。現在20代の人達は、ポスト工業化という先進国共通現象と、正規雇用への敗者復活が不可能という日本独自現象の組み合わせによるこの現実がよく分かっていない」 古市「今できることは?」 小熊「雇用慣行を変えることくらい。包括的な解決案は非常に難しい」 若者論はなぜ続く? 古市「一億総中流が崩れて格差が固定化されたにも関わらず、格差論ではなく、世代論である若者論が続くのはコミュニケーションツールとして便利だから」 小熊「まだ(格差による)階級でものを語るのに慣れている人が少ない。また、時代の変化も確かにあり、80年代までに人格形成した世代とそれ以降の世代とでは傾向が違う」 小熊「また、古市氏も指摘したように移民が入って来ない日本においては人種でなく世代が語られる。日本の若者がバイトする職種(マクドナルド等)はヨーロッパだったら移民がやっている。日本における若者バッシングはヨーロッパにおける移民排斥運動とパラレルな関係にある」 小熊「教育社会学・格差研究の要素を含み、同世代の人間が若者を書いたという点で『絶望の国の幸福な若者たち』は優れている、新鮮さがある」 古市「自分自身は40、50歳になって若者論をやるつもりはない」 古市「自分のアイデンティティは研究者にはない」 小熊「アカデミックな訓練を積んだことを活かしたほうがいい。フリーの学者では食べていけない」 古市「自分は友人とやっている会社がメイン」 小熊「順調なうちはそれも可。フリーの物書きは、毎年1万部以上×2冊をやっても年収360万円の苦しい世界。1960年代は岩波新書を1冊出せば家が建つと言われたが…」 3・11等の、時代の転機といわれるポイントについて 古市「震災の影響は関東と関西では全く違った。特に関西では変わらない日常が送られていた。震災後と一様にくくって論じるのは難しい」 小熊「震災後に「日本が変わる」と活発に発言していた知識人は震災前と同じ主張を繰り返しているだけだった。それらは震災を機に自分の望ましい方向に変わって欲しいという意見表明だった」 古市「95年のオウム事件などを転機にあげることも否定していたが?」 小熊「戦後史に限れば55年あたりと90年あたりが区切りと考えている。ただしアラブの春などもあった2011年が本当に世界の転換点だったということになる可能性もある。もし数年後に日本が財政破綻すれば、震災後にまだこういう気分だったのかと『絶望の国の幸福な若者たち』が歴史に残る本になる可能性がある」 古市「2011年にもなって、まだこんな呑気なことをいっていた本があった、と(笑)」 デモに参加する世代 小熊「古市氏は新著で原発デモに意外と若者が少ないと書いていたが、若者が政治に無関心なのは1970年代以降定説にも関わらず、古臭い」 古市「オキュパイ・トウキョウにしても実際に若者はあまり居なかったが、メディアでは若者のデモとして語られる」 小熊「それはただ単に1960年代、大学生が限られたエリートだった時代作られた、デモは若者のものというイメージの残像である」 古市「若者の政治離れ仕方ないとすれば、中高年が社会を変えてくれるのを待つしかない?」 小熊「それでは中高年の都合のいいようにしか変わらない」 小熊「日本にはもはやカウンターカルチャーはない。ロックも若者のものだけではなくなった。しかしカルチャーの形でなくてもタブーはある。それをどう出していくか」 小熊「震災で一番変わったのは秩序に対する信頼である」 デモで何が変わる? 小熊「デモに対する(投票に行く方がいい。ロビー活動などしないと意味ないなどの)批判は、機能しなくなっている代議制民主主義を前提としているので視野が狭い。代議制民主主義で社会を変えるのは難しくなっている」 古市「現実には代議制民主主義が続いているので、それに則って投票なりしなければ何も変わらないのでは」 小熊「それは否定しない。しかし投票に繋がらなくてもデモが無意味ではないデモは「空気」を変える」 科学とは何か 小熊「科学とは反証可能性がなくてはならない。その点『絶望の国の幸福な若者たち』は科学ではない」 古市「確かにそうだが、逆に検証しないことでしか捉えられないこともある」 小熊「もちろんある。だがそれでもできるだけ再検証可能な方法を採るべき。その意味で『絶望の国の幸福な若者たち』は古市氏自身の枠組みをあてはめているだけで、現実から古市氏自身が正された経緯がみえないから、科学ではない」 おわりに 小熊「古市氏は自身を若者と感じているようだ。若者はその人の「未来」に対する期待で評価される存在だが、その期間は短い。この人はよくて現状だと思われた時から色々問題が起こる。まあでもしっかりした仕事をして下さい。これは期待しております」 古市「まだ未来があると思っていただいているということですね笑」

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「感想」 若手気鋭で同年代の古市氏が登場したので期待して読み始めたのですが、小熊氏に終始押され気味の印象でした。小熊氏の発言に対して古市氏が反論をしたり他の見方を提示したりすることは稀で、「確かにそうですね」という発言がかなり多いです。年長者の意見に対して敢えて反論せずに、適当に合わせるという戦略は僕ら80年代生まれに多いものとも思われるので、おそらく古市氏なりの処世術や調査スタイルなのかもしれません。トークショーとしては見ごたえに欠けるかもしれませんが、そもそも20代と50代では同じ研究者でも蓄積が違うし対等にやりあえという方が無茶かもしれませんね。レベルは全然劣りますが僕が50代の指導教授相手に修士論文の話しをする時などやはり「確かにそうですね」連発に陥りがちです(汗)… さて、肝心の対談内容ですが、若者論を中心に現代日本に起こっている、ポスト工業化社会と敗者復活不能な雇用慣行という社会情勢、デモと代議制民主主義の関係などについて話題が展開されています。良い意味でも悪い意味でも『僕たちは就職しなくてもいいのかもしれない』などとは真反対のスタンスです。雇用が減っているというスタート地点は共通なのですが、そこから現在の構造が続くと仮定してフリーター型の生き方を続けていった場合、例えば30歳を超えて正規雇用への上昇という展望もなく、親の介護も必要になってきたら…と考えるのが本対談。『僕たちは~』の方では、バイトを掛け持ちしてシェアして生きていこう!みたいな社会における人の生き方が一気に変わった世界を仮定しています。 「好きなことだけやっていたら生きていけない」というしごく真っ当な常識的な結論に行きついています。 古市氏は「若者をあきらめさせろ」などの提言で知られ、その意味では小熊氏に近いスタンスと言えるのですが、一方でフリーター的な生き方という現代日本に特有の姿を肯定することで、すなわち現代日本の社会構造を肯定してしまっている向きもあります。その点が小熊氏に若者全体の感覚を反映しておらず「あなたの枠組みだ」と批判されているようです。また東浩紀氏も名前こそあげていませんが「今の日本の在り方を肯定するような若手論客はさすがにまずい」というような主旨のことを発言しており、おそらく本書を意識しての発言ではないかと、私は考えています。 引用・参考文献 『真剣に話しましょう』 小熊英二 新曜社

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