第二次大戦中、エジプトに侵攻をしようとしていたドイツ軍に対して、マジックを使って戦いを挑んだ男がいた。その人物の名は、ジャスパー・マスケリン、イギリスのマジシャンだった。イギリス軍に入隊した彼は、人を騙すあらゆる手口を使って、ドイツ軍の目を欺こうとする。
本書は、そんなマスケリンが、戦地でしかけた様々なイリュージョンを描いたノンフィクションである。
第二次大戦当時、イギリス軍はエジプトに駐屯していたが、ドイツ軍はイギリスをエジプトから撤退させようとやっきになっていた。イギリス軍の背後にはペルシャの油田が控えていて、イギリスがエジプトから撤退すれば、イギリスは石油の重要な供給源を絶たれることになる。ナチスは、北アフリカ戦線に砂漠戦に備えた精鋭部隊を送り込む。そして、その指揮を担ったのが、戦車戦の専門家エルヴィン・ロンメル将軍だった。
ロンメル将軍は、卓越した戦略でイギリス軍を苦しめ、快進撃を続ける。じわじわと追いつめられてゆくイギリス軍は、ドイツ軍に対抗するためマスケリンの力を借りることに――。
本書を読んでいると、マスケリンのドイツ軍の目を欺く壮大な仕掛けが次々に出てきてびっくりする。ニセの潜水艦を作り上げる、アレクサンドリアの港を移動させる、戦車部隊をそっくりそのまま作り上げる、スエズ運河を消してしまうなどなど……。マジックの技法を応用してドイツ軍を撹乱し、おとりに向かって攻撃をさせたり、イギリス側の攻撃計画を隠匿したり。あの手この手でドイツ軍を騙そうとするイリュージョンが出てきて興味深い。
出てくるトリックはステージマジックの技法を応用したもの。舞台が戦場になろうと、人の錯覚を利用するという点では同じなんだなあということが分かる。ハリボテを戦車に見せかけたり、人形を本物の人間に見せたり、視覚の錯覚を利用する。見せたいものを見せて、誤誘導する。マジックの技法が驚くほど壮大な舞台で使われるところが面白い。
マスケリンの奇抜な作戦はドイツ軍を苦しめ、ロンメル将軍の進撃を食い止め、イギリス軍を優勢に導くことになったのだそう。どこから伝説でどこまで真実かは分からないが、次々に目を見張るエピソードが出てきて、非常に読み応えのある一冊だった。
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