中国共産党中央総書記である習近平の半生と、現在の中国が何を狙いとしているのかを解説した本。 1978年、文化大革命による経済的な打撃から脱却するため、当時の中国のトップであった鄧小平は改革解放路線を打ちたてた。「先に富める者から先に富め」という先富論を唱え、金儲けを推進するよう人々を駆り立てたのだ。そのあとを継いだ江沢民も鄧小平の路線を引き継ぎ、経済の成長に重きを置いた。 この改革開放路線の結果、中国経済は著しい成長を見せるが、同時に貧富の差も拡大。富の一極集中が生まれ、党幹部が利益集団と化し、腐敗が生じるようにもなってしまった。これは中国の本来の社会主義に反するものといえる。 習近平が中国のトップとなると、いやがおうにも、こうした問題に直面せざるをえなくなる。利益集団や腐敗を切り崩して、「先に富んだものがまだ富んでいないものを牽引して、共に富む」という共富論を実践することが必要となってきた。 政治体制を改革して民主化すれば、三権分立によって腐敗が防げるかもしれないが、共産党の一党独裁体制を崩壊させるわけには行かない。共産党の支配を保ったままで、問題を解決しなければならない。習近平体制に課せられた難問である。 本書は、こうした難問に直面した習近平がどのような政策をとろうとしているのか、その政策が日本とどのように関わってくるのかについて、丁寧に解説している。普段ニュースで目にするような中国の問題が、中国の目線から人つながりに見えてくるような内容だ。 日本の視点から見ると、中国の脅威ばかりに目が行きがちだが、本書を読むと中国には中国で様々な苦悩を抱えていることが分かる。民衆の暴動による一党独裁への脅威、格差問題、環境悪化、政治の腐敗など、実は危ういバランスの上に成り立っていることが書かれている。 また、習近平の政策について語るにあたって、その人生の山あり谷ありが丁寧に描き出されているところも読み応えがあって、面白かった。波乱万丈の生き方をしていて、一代記として読んでも興味深い内容。中国の上層部の中も様々な陰謀が渦まいていて、随分ドロドロとした争いがあるもんだと驚いた。 下手に主義主張を通そうとすると、いつ足を引っ張られるか分からない世界にあって、習近平はできるだけ穏便に立ち回って、周りに嫌われない「いいひと」を目指していたタイプだったというところも読んでいて面白かった。中国のトップにもいろいろなタイプがあるらしいのである。 中国の政策について鋭い分析がなされているし、習近平の人となりも分かって、かなり勉強になる本。やや脱線気味に話が進んで、中国を取材したときの筆者自身の体験談なども出てくるのだが、こういう脱線話もめっぽう面白くてためになった。
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