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南総里見八犬伝 第之二 第四回(2)

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第四回 小湊に義実義を聚む 笆内に孝吉讐を逐ふ 前回のあらすじ 金碗と アフター金碗.jpg 金碗は義実たちを小湊(こみなと)に連れて行った。夏ではあったが、日も暮れて、月もまだでないので、あたりは真っ暗だった。 馬琴先生マメ知識コーナー

ここ小湊(千葉県鴨川町のあたり)は日蓮上人誕生の地であり、そこに誕生寺というのが建てられているんだよ。そのためこの辺りの人は皆、誕生寺の檀家で、誕生寺を大切にしているんだ。
誕生寺.jpg 金碗 「なので、燃やします」 燃やす.jpg 村人はみんな出てくる 「火事だ!うちの寺が!」 しかし、風もないし、燃えているのは誕生寺ではなく横の竹薮だったので、周りに燃え移る物も無く、火事は自然におさまった。 「クソッ、曲者の仕業か?こんな夜中にたたき起こしやがって!」 「まあ、寺は無事だったんだ。よかったじゃないか」 「でもよぉ、このムカっ腹をどうしたらいいんだ?」 村人たちは笑って、その場は自然にお開きになるかと思われた。 そのとき、燃え落ちた竹やぶから、ぬっと人影が現れた。 ゆーれい.jpg 村人
「鬼だ!鬼が出たあ!」
金碗
「皆、落ち着け。私はあなたたちを待っていたのだ」
村人
「みんな、鬼じゃねえ!こいつが曲者だ、ひっとらえろ!」
金碗
「待て!理由無く火を放った訳ではないのだ。私は金碗八郎孝吉!」
村人
「なんと…あの金碗どのであったか。やつれていて分からなんだ」
金碗
「そうだ。主を諫めて、それを用いられなかったために、仕方なく(調子の良い金碗)諸国を放浪していたが、主君に対する旧恩をどうして忘れることがあろうか(違うだろ。仙木の仇討ちだろ)。わたしがこのようにやつれているのは、全て逆臣山下を討つため」
(村人涙をのむ) 金碗
「しかし、山下には多くの手下がおり、私一人ではどうにもならない。麻呂や安西も汚いやつで、協力は見込めない。いっそ死んで怨霊になり(お前が怨霊になるのかよ)、山下を呪ってやろうかと思っていたその矢先に…」
(村人息を飲む) 金碗
「この里見義実氏が現れた!実は私もこの御仁には先ほど助けていただいたばかりだ。この人についていけば必ず山下を討つことができるだろう!」
(村人歓声を上げる) 義実
(杉倉、堀内と共に薮陰から現れる)私が里見義実だ。この戦乱の世の中で、武士として生まれたからには、修羅闘場を奔走し、矢傷を受けてここへやってきた。民の父母となるべき主に、徳が絶えてしまったとあなたたちが思うのならば、私は手を貸そう。しかし、どんな駿馬も足が無ければ走れない。鳳凰であれど、羽が無ければ飛ぶことは叶わない。私は孤独の落ち武者にすぎない。皆、力を貸してくれ」
(村人大盛り上がり) 村人
「ああ、私たちの誰が山下を恨めしく思っていないでしょうか。憎くとも、私たちだけではどうしようもなかった。私はあなた様のような方を待ち望んでいたのです。どうか山下を倒してください。私たちはそのためには命を惜しみません」
金碗
「うむ。このようなことを一軒一軒のんびり伝えていたら、敵に作戦が漏れてしまう恐れがあるからな。仕方なく竹薮に火を放ってお前たちを集めたのだ」
義実
「しかし、私には馬や兵糧の蓄えもない。こういったものはどうしたらよいだろうか?」
無視.jpg 村人たちが悩んでいるとその中から村長とおぼしき老人が出てくる 村長
「いち老人の愚案ではありますが…申し上げますに、ここ長狭郡は山下の手下である萎毛酷六(しへたげこくろく)が支配しております。山下を討つ前に萎毛を倒して、奴の城を手に入れればその問題は解決するかと」
その後老人らは、詳細な作戦を述べた。義実はいたく感動して 義実
「どこにでも素晴らしい人が居るとはこのことだ。そうと決まれば早い方がいい。今すぐにやろう!」
義実は杉倉、堀内、金碗らと示し合わせると、150人余り集まった村人を三隊に分けた。村人たちも勇み足で、竹を切り出して竹槍にし、小脇に抱えた。 三隊.jpg ~三隊内訳~ 先陣・堀内貞行+村人四十人余り   *金碗を縛って連れて行く 中軍・里見義実+村人六十人余り 後陣・杉倉氏元+村人五十人余り   *中軍と後陣は二手から攻めより、城の正門で合流 今更補足
・山下定包がいる城→滝田城  萎毛酷六のいる城→東条城  二人とも城を持っていますが、長狭、平群を支配しているのは山下で萎毛は山下の手下です。
明け方ーー東条城では萎毛酷六が、うつらうつらしていた。 酷六.jpg それと言うのも、夜中に小湊の方で突然火が上がり、急いで火を消そうと兵を放ったものの、「それは野火で自ずから消えた」といって兵が帰ってきたのだ。夜中に起こされたと言うのに手間だったと腹立たしく思い、二度寝をしようと布団に入ってうつらうつらしているときに、手下が慌てて飛び込んできた。 萎毛
「なんだ…火事なら家で起きん限り、わしはもう起きんぞ…」
萎毛の手下
「萎毛様!火事より大変なことが!謀反です!」
萎毛
「なにぃ?!」
手下の話すところによればこうだ 先刻、正門の城戸を叩くものがあるので誰かと思えば村長と村人たちである。 萎毛の手下 「何用だ」 村長 「昨晩の火事の下手人を捕らえましたところ、これが金碗八郎という輩で、山下様に仇討ちを果たそうと狙っていたようなのです。こやつを逃がしては我々にも火の粉がふりかかると思い、いそいで駆けつけた次第です」 そう言って村人たちは縛られた金碗を引きずり出す 萎毛の手下 「…よし、良いだろう。中へ入れこの金碗、もちろん縛られたフリである。一番先に城内へ入ると、近くの兵士の刀を引き抜いてそいつの首を飛ばしてしまった。思いがけない事に、萎毛の手下たちが慌てふためいていると、後ろから堀内もやってきてあっさり二の丸に到達してしまった。 萎毛の手下
「義実、杉倉らも合流してもう城内はめちゃくちゃです」
萎毛が慌てて窓を開けると、義実の声が聞こえてきた。 義実
「私は里見義実!諸人によって主人となった。これは仁義の戦である!うち祓うのは国の汚れであり、逆臣山下のみ!過ちを悔やむものは降参せよ!降参すれば罪は問わない!」
兵士たちはこれ幸いとばかりに鎧を脱ぎ捨てて、命乞いをしているではないか。萎毛はガタガタと震え出した。 萎毛
「まずい、討つのは山下ばかりといえど、私はあそこで命乞いをしているような連中とは違うのだ…殺される!逃げよう!おい、奥!」
萎毛は奥方と子どもを起こすと、わずかな手下をつれて城の西北に延びる抜け道から逃げ出した。 この抜け道の名前を笆内(かさのうち)と言う。 かさのうち.jpg 萎毛
「へっへっへ…義実は所詮外来の将、この辺りの地理には明るくなかろう。ここが見つかることはあるまいて」
そのとき、後ろを走っていたかごかきたちが悲鳴をあげた。何事かと思って萎毛が振り返ると ゆーれい2.jpg また金碗である。 一行は大パニックを起こし、篭かきたちは奥方と子供を乗せた篭ごと崖からまろび落ちた。それが、崖下で粉々になって死んでしまったのを見て、萎毛は更にパニックに陥り、手下たちと散り散りになって逃げ出した。しかし、金碗たちはそれを執拗に追う。ついには萎毛を除く全ての手下を捕らえてしまった。追いつめられる萎毛。 金碗
「逆臣定包に与し、民を虐げ、あろうことか家臣を見捨てて、いの一番に逃げ出すとは。ついに天罰が下ったのだ」
萎毛
「お願いします!命だけは!」
金碗、容赦なく萎毛の首を切る。 義実
「はぁ~…」
ところ変わって、ここはすっかり制圧された東条の城である。萎毛の首を差し出す金碗を見て義実は大きくため息をついていた。 義実
「金碗。人が武力を行使する時は、どうしようもないときだけだ。いいか。山下に従うもの皆が悪人ではない。多くはただ生き延びるために仕方の無い選択をしているのだ」
金碗
「しかし、萎毛は真の悪人でありました」
義実
「そうだ。そうでなければ、どうして彼の妻や子がそんなむごい死に方をするだろうか。そのように真の悪人であれば我々が手を下さずとも、天が彼らを滅ぼすものだ。逆に我々が彼らを殺すようなことをすれば、私は先ほど皆に言った約束を破ることになり、彼らと同じになってしまう。ゆめゆめ慎めよ」
それから義実は金碗が捕らえてきた萎毛の手下を解放させた。皆は大喜びで歓喜の涙を流した。しかし義実は金碗にこうも言った 義実
「しかし、萎毛にこのことを告げられていては、瞬くうちに山下、安西、麻呂の三人に攻め入られ、ひとたまりも無かっただろう。私の心を読んだような素早いはたらき、見事であった。今日の第一の功労は金碗に与えよう」
金碗
「それはどうか辞退させて下さい。私の心中を推量って頂き…何卒」
義実
「…分かった」
その後、第二の功労は村長たち(三平、四治郎、仁総)に与えられ彼らの村には今の二倍の領地が与えられた。第三の功労は杉倉、堀内である。引き出物を賜った杉倉、堀内はこのように歌った。
~賞重して、罰軽し、死せるものも更に生、活る物は栄たり。江に還る車轍の魚、雪の中なる常磐木、君が齢はさざれ石の、巌となるまでつきせじな。
こうして義実が仁君であるとの噂はたちまち広がり、さらに数百人がが東条の城に集まった。義実はその中から、たったの二百人を選び、山下討伐に出かけた。 遠征.jpg ~このときの様子~ 滝田遠征軍→二百人余り  大将・里見義実  先陣・金碗八郎  後陣・堀内貞行 東条城防衛群→残り全部  大将・杉倉氏元 杉倉
「義実さま!そのように少数では危険です。東条の城守りこそ、二百人程度で済むというもの」
義実
「いや、この城は私の家なのだ。厚く守ってくれ。あと杉倉、安西や麻呂が来ても決して戦わず、和睦してくれ。なに、戦とは兵の数だけで決まる物ではない」
そう言うと、義実は先陣を急がせて出て行ってしまった。すると、道々で義実の噂を聞きつけた野武士たちが合流し、なんと軍勢は千人にも膨れ上がってしまった。このことから、ここに掛かる橋は千騎橋と呼ばれるようになった。さらにここは源頼朝縁の地でもあったため、白旗の神社があった。それに義実が祈ると、二羽の白いハトが飛んできて、山下の城の方へ飛び去った。これを見た皆は、合戦の勝利を確信したのだった。 ハト.jpg 次回へ続く
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