イギリスの諜報機関は、通信傍受により、ノアという人物がテロ計画を進行させていることを知る。その計画が実行されれば、死者は数千にものぼる見通し――。秘密工作員のジェームズ・ボンドは、このテロ計画を阻止するよう任務を与えられる。ノアの正体をつきとめ、テロ計画の全容を暴こうとすべく、手がかりをたどってセルビアへ……。 映画でもおなじみの007の物語を、人気作家ジェフリー・ディーヴァ―が小説化。生みの親のイアン・フレミング亡きあと、このシリーズはいろいろな作家が書き継いでいるが、本作はディーヴァ―ならではのひねりのきいた作品になっている。 物語の舞台は、セルビア、イギリス、アラブ首長国連邦、南アフリカとめまぐるしく展開。主人公はまさに世界を股にかけた活躍を見せる。 「ゴースト・スナイパー」とこの本を続けざまに読んで、ディーヴァーはミスディレクションの上手い作家なんだなあと感じた。 犯罪行為もあからさまにやってしまっては、すぐに露呈してしまう。巧妙な犯罪者なら、悪事がばれないように捜査機関に偽の手がかりを与えたり、スケープゴートを与えたりして、煙に巻くだろう。捜査機関が、誤った標的を追いかけているうちに、こっそりと悪事を働いてしまう。 ディーヴァーはそんな本質から目をそらす手法が巧みで、本作の中にもミスディレクションの手口がたくさん出てくるのである。最後の最後に、思いもよらない意図が隠されていたことが分かったりして、最後まで目を離せない展開になっている。 007なので、危機また危機のスパイアクションとしても面白いのだが、やはりディーヴァ―が書いているだけあって、ミステリーとしての完成度が高い。細かな手掛かりを追いかけていく楽しみやどんでん返し。ちりばめられた手がかりが最後に一枚の絵になるダイナミズム。仕掛けがいくつも盛り込まれている感じで、読みごたえがある一冊だった。
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