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佐藤賢一著「徳の政治」を読んで

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IMG_2031.JPG 照る日曇る日第611回 著者畢生の史伝「小説フランス革命」も最後から2冊目の第11巻となり、もはや一瞬も眼を離せぬラストスパートに突入した。 本巻のハイライトは1789年7月14日のバスチーユ襲撃と1792年8月10日のチュイルリー宮殿襲撃をそれぞれ主導したカミューユ・デムーランとジョルジュ・ダントンの悲愴なギロチン送りであるが、極左突っ張り野郎のサン・ジェストの突き上げを食らって左のエベール派と右のダントン派を粛清しつつ「徳と恐怖政治」のセンターラインを突っ走らざるを得なかったロベスピエールの苦悩が、普段は冷静な歴史家として振舞っている著者にしては珍しく、仏蘭西特産の心理小説風にツッコンんで描破されている。 デムーランの美貌の妻リュシルから、夫を救ってくれという命懸けの懇願(それも着衣を脱ぎながらの!)を受けたロベスピエールは激しく動揺し、「革命を裏切ったデムーランは処刑せざるを得ないが、じつは初めて会ったときから貴女が好きだった!? どうか結婚してくれ」なーんて口走るのだが、これって本当のほんと? そもそも氷のように冷静な「徳の権化」ロベスピエールに対してなんの人間的魅力も感じていないのに、突如飛び出したのは、夫の恩赦どころか空気をまるで読まない愛の告白だった、というまるで舞台裏を見てきたような話。 かくて女は男を激しく軽蔑して死を賭して居直り、男は最愛の女性をギロチンの刃の下に失うという、双方にとって最悪の結果となった、と著者は自作自演してのけたのであった。 いずれにしても、愛する者を幸福にするために献身した革命が、その不可避的な進行ゆえに不可避の対立を生みだし、結局愛する者を最悪の不幸に陥れるというパラドックスを巡って、断頭台に引きずり出されたダントンとデムーランが最期の瞬間まで続ける必死の対話こそ、この力作の最大の読みどころといえよう。 鎌倉の平屋の居間に独りいて朝から晩まで本などを読む 蝶人


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