山極寿一/著
出版社名 : 集英社インターナショナル(知のトレッキング叢書)
出版年月 : 2014年7月
ISBNコード : 978-4-7976-7276-3
税込価格 : 1,188円
頁数・縦 : 173p・19cm
現代の人間社会は、類人猿型の社会から、サル型の社会に移行しつつあるという。ちなみに本書におけるサルとは、ヒト科(類人猿)以外の霊長類をさすようだ。念頭にあるのは、ニホンザルなどのマカク類だろう。つまり、序列の決まったピラミッド型の社会を構成して集団で暮らす「サル」たちである。
【目次】
第1章 なぜゴリラを研究するのか
第2章 ゴリラの魅力
第3章 ゴリラと同性愛
第4章 家族の起源を探る
第5章 なぜゴリラは歌うのか
第6章 言語以前のコミュニケーションと社会性の進化
第7章 「サル化」する人間社会
【著者】
山極 寿一 (ヤマギワ ジュイチ)
1952年東京生まれ。京都大学理学部卒、同大学院理学研究科博士課程修了。理学博士。カリソケ研究センター客員研究員、(財)日本モンキーセンター・リサーチフェロー、京都大学霊長類研究所助手を経て、京都大学大学院理学研究科教授。1978年よりアフリカ各地でゴリラの野外研究に従事。類人猿の行動や生態をもとに初期人類の生活を復元し、人類に特有な社会特徴の由来を探っている。
【抜書】
●ジャパニーズ・メソッド(p20)
人類学者今西錦司、「人間以外の動物にも社会が認められる」という考えのもとに、サルの社会の研究を始める。それまで、「社会」は人間にしかないと考えられていた。
日本の霊長類学は、動物の社会の研究すなわち動物社会学から始まった。幸島(こうじま。宮崎県)のサルのイモ洗い。
1948年、京都大学講師だった今西は、伊谷純一郎、川村俊蔵をつれて幸島へ。はじめは半野生の馬の研究を目的にしていたが、偶然見つけたサルの群れのほうが面白いテーマだと直感、野生ニホンザルの調査を開始。
1953年に、子ザルがサツマイモの土を落とすために小川で洗ったのが始まり。次第に他のサルにも伝わった。
ジャパニーズ・メソッド……ニホンザルの一頭一頭に名前をつけて観察するという方法。『シートン動物記』にヒントを得た。当初は、世界の学会から大顰蹙。動物に名前をつけるのは擬人的な行為であり、動物を人間と同じように見る誤った見方である、と西洋社会は受け止めた。
●ゴリラの分類(p29)
・ニシゴリラ
ニシローランドゴリラ……茶褐色あるいは灰色。短い体毛。丸い顔、鼻の先に突起。成熟オスは背中から後ろ足まで毛が白くなる。木登りが上手で、足が器用。約20万頭。
クロスリバーゴリラ……見た目はニシローランドゴリラとほぼ同じ。詳細不明。250~300頭。
・ヒガシゴリラ
ヒガシローランドゴリラ……黒く、短い毛。長い顔、すっきりした鼻筋。成熟オスは背中の白い毛が鞍状になる。後頭部がヘルメットのように突出。体が大きい。5千~1万頭。
マウンテンゴリラ……黒く、ふさふさした長い毛。丸顔、平たくひしゃげた鼻。成熟オスは背中の白い毛が鞍状になる。後頭部がヘルメットのように突出。足の形は親指と人差し指の間隔が狭く、人間の足のように地上歩行に適している。650~800頭。
●ダイアン・フォッシー(p40)
山極、1980年12月から、カリソケ研究センターでマウンテンゴリラの研究を始める。ヴィルンガ火山群(ウガンダ、ルワンダ、コンゴ民主共和国の国境が交わる)のほぼ中央に位置するビソケ山の一角。
カリソケ研究センター……1967年にダイアン・フォッシーが設立した、ゴリラ研究のメッカ。
ダイアン・フォッシー、密漁でゴリラを殺す地元の黒人を嫌っていた。ゴリラが密漁者と同じ黒人に慣れるのを恐れ、トラッカー(地元の道案内)がゴリラに近づくのを禁じる。人種差別。1985年のクリスマスの晩、何者かに鉈で頭を割られて死亡。
●誰も負けず、誰も勝たない(p52)
ゴリラは、「負ける」という概念を持たない。優劣の意識がない。「グリメイス」にあたる表情が存在しない。威嚇されても、じっと相手の目を見つめる。相手が何を考えているのか知ろうとする。
グリメイス……劣位のサルが口を開けて歯茎を出す表情。優位なサルににらまれたときに、自分の立場が相手よりも下であることを示す。
覗き込み行動……ゴリラは、仲直りをする時、対面してじっと顔を突き合わせる。ふっと緊張が解ける瞬間があり、自然に分かれる。
喧嘩が起きると、第三者が割り込んで仲裁することもある。子ども同士、メス同士の喧嘩にはシルバーバックが、おとなのオス同士の喧嘩にはメスや子どもが介入。
●ピーナツ(p91)
ピーナツ……6頭のオスだけの集団を形成する年長ゴリラ。密漁によって群れのリーダーが殺されたゴリラたちが集まってきた。同性愛行為を行う。
オス集団は、7年間続いた。別の集団のシルバーバックが病死し、メスと子どもたちが逃れてきて分裂。
ピーナツは、再びオスの子どもたちばかりを集めて新しいオス集団を形成。合計8頭に。
ピーナツは、かつてメスと交尾して子どもも設けたが、他集団のシルバーバックにそのメスを奪われ、子どもも殺された。それ以来、オス集団を形成。
●家族(p94)
〔 私が人類学や霊長類学に惹かれた理由のひとつに、人間特有の「家族」という集団について深く知りたかったから、ということがあります。〕
〔 ゴリラは自分の家族を優先するから、群れ同士が連合し協力する社会は作れない。チンパンジーは家族を解体する代わりに、集団を作っている。人間だけは集団と家族を両立させています。〕(p100)
●アンフランジ(p121)
オランウータンのオスは、大人になると毛が長く伸び、頭はとんがり、顔の両側の肉ひだが張り出す。顔の出っ張りを「フランジ」と呼ぶ。
フランジのあるオスは縄張りを持っている。喉に大きな袋があり、声を増幅させる。
「ロングコール」といわれている大きな声を出して自分の縄張りにメスを引き寄せ、交尾する。
アンフランジ……十分成熟しているのにフランジを持たないオス。見かけは若くて未熟なオスに見え、縄張りを持たない。ロングコールを発しない。メスに出会うと交尾を強要、抵抗してもレイプに近いやり方で交尾。
●ゴリラの歌(p124)
ゴリラの歌……フート、シンギング、ハミング等。
フート……「ホーホッホッホッホ、ホーホッホッホッホ」のように聞こえる。離れた者同士がお互いを確かめ合うために出す。また、威嚇や警告にも。マウンテンゴリラは、オスしかフートを発しない。いつも集団でまとまっているから? ニシローランドゴリラは老若男女。
シンギング……「ホォー、ホォホォー」、高音。喉で響かせる。自分の群れの中で交わす声。子どものみ。
ハミング……ゲップ音に近い音。子どもから大人まで。「みんなに食べ物がいきわたって満足したな」と確認し合う。
ニシローランドゴリラは、ヒガシゴリラに比べて歌う頻度が高い。果実を好んで食べること、活動範囲が広いことから。
●人類の4度の食料革命(p136)
①食物の運搬……仲間同士で安全に分け合うため、食べ物を持ち運ぶ。直立二足歩行と多産。
②肉食革命……ライオンやハイエナなどの獲物の死肉を利用。木や石を投げて追い払う。骨を砕いて骨髄を食べるために石を使用。肉食で食べ物を摂取する時間が減少、余った時間を社会行動に充てる。進化の促進。余ったエネルギーを脳の進化と維持に回す。
③調理革命……当時は多くの火山があり、野火は日常茶飯事。焼け死んだ動物たちの肉を食べる。焼いた肉は消化しやすい。火を通すと植物も食べやすくなる。有害物質も栄養素に変わり、食べられるようになる。
④農耕と牧畜……食料を自ら生産。
●言語のもとは子守唄(p141)
草原に進出した人類は二足歩行と多産に進化。手間のかかる子どもを守り育てるため、共同で保育が必要になる。新たなコミュニケーションとして子守唄が発生。
多産なヒトの母親は、一人の子どもにつきっきりではいられない。母親が離れて不安な赤ん坊は声を上げて泣き出す。泣いている子どもに向かって「ここにいるよ、安心してね」というメッセージを歌で伝える。母親だけでなく、みんなで歌った。
赤ん坊に対する発話は、現代人のどの社会のどの文化でも同じような抑揚がある。高音で、ゆったりとしていて、繰り返しが多い。人間が絶対音感を持って生まれてくるという特徴に関係する。言葉を理解できない赤ん坊は抑揚だけを聞いている。
音声によるコミュニケーションは、最初は子どもに向けて発するものだった。次第に大人同士にも敷衍されていった。
一緒に歌うという音声コミュニケーションは、人間の共感能力を高める機能がある。言語に至る前に、人類には歌や踊りといった音楽的なコミュニケーションが共有されていた。
●マジックナンバー(p148)
150人……信頼できるコミュニティとして最大の規模。互いの顔と名前が一致する関係性の上限人数。
150人という人数は、人類学では「マジックナンバー」と言われている。
狩猟採集民のピグミーのバンド(複数の家族からなる集団)の規模は150人程度。
ロビン・ダンバー(英国の人類学者)「人間に限らず、霊長類の脳の発達は、集団規模と正比例する」という仮説を立てる。
人間の脳が大きくなり始めたのは200万年前。それ以前の集団規模は50人未満。脳の容量は500cc、現代人は1400cc(60万年前に完成)。言語の誕生は、30万年前もしくは20万年前以降。
●向社会的行動(p159)
〔 食べ物を家族で分かち合い、共同体でともに子育てを行うといった行動は、人間の心を進化させ、高い共感能力を芽生えさせました。共感能力とは、自分以外のものの気持ちを理解する力のこと。人間以外にも、ゴリラやサルにも共感能力はみられますが、人間ほどではありません。〕
同情……共感力を高めて作りだした心理状態。シンパシー。
向社会的行動……相手のために何かをしてあげたい、他人のために役立つことをしたい、という想いに基づく行動。
共感 → 同情 → 向社会的行動。
大昔から、人類は家族のために無償で世話を焼き、共同体の中で互いに力を出し合い、助け合っていた。
認知能力が高まったから思いやりのある社会がつくられたというより、向社会行動が人類の認知能力を高めた。
●平等な社会(p164)
サル社会は、序列で成り立つピラミッド型社会。
「人間がひとりで生きることは、平等に生きることに結びつかない」。家族を失い、個人になってしまったとたん、人間は上下関係をルールとする社会システムの中に組み込まれやすくなってしまう。
(2014/10/24)KG
〈この本の詳細〉
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e-hon: http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000033125769






