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第三百二十ニ話_short 忘れてしまった誰か~黄色いクマの言葉③

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「もし別れのときが来たら、心の中にボクを入れておいて。そこにずっといるから」

 この台詞はよく覚えている。目の前の黄色いクマのぬいぐるみがそう言ったのだ。

 当時のぼくはどういうわけだかクマのぬいぐるみが好きでたくさん持っていたが、中でも黄色いクマはいつも傍に置いて放さなかった。ぬいぐるみがしゃべるわけはないので、誰かが黄色いクマのぬいぐるみを持って腹話術みたいにしてしゃべっていたのだと思う。あるいは自分で持ったぬいぐるみに、なんどもテレビで見ているうちに覚えた台詞を言わせていたのかもしれない。

 大人になったいま、もちろんクマのぬいぐるみを沢山持っていたりはしないのだが、ふと思い出す。あの黄色いクマはどこにやったっけ? いつの間にかどこかにやってしまった。それに……クマを持ってぼくに話しかけていたのは誰だったのだろう? 父の元を去ってしまった母だったのか、隣に住んでいた女の子だったのか、学校の同級生だったのか……いまとなっては名前すら忘れてしまった誰か。

  ただ黄色いクマの姿とあの台詞だけがいつまでも記憶の中で輝いている。

                                     (クマのプーさんの言葉より)

                      了

 

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