西ブロックに稀な、春の日のような穏やかな一日。崩壊後にNO.6に留まった紫苑。風のようにさすらうネズミ。そして、紫苑の父の秘密─。惜しまれつつ完結した物語に、
さらなる命を与え、それぞれの生の一瞬を、鮮やかに切り取る。
イヌカシの昔。紫苑とネズミがいっしょにいた日々。紫苑とネズミのその先。4編が入っています。過去はともかく、楽しみにしていた先、ですが、別れた道は穏やかなものではありませんでした。お互いを思いながらも、特に紫苑が、楽ではない状況に身を置いているのが辛いです。いや安穏とした未来を想像していたわけではなくても、もうちょっとハッピーなものを感じられたらと。嵐がむかってきても乗り越えてくれると信じられてもしんどいなぁと。紫苑のパパが今さら語られて、しかも余分な火種をまき散らしてくれそうなのですが、紫苑は優しいまま、成長してもそこの部分は変わらずにいて欲しいと願います。 ★★☆
「再生? 新しい? ありえんな。誰がどんな風に関わっても、国家は国家。いずれは、支配体制を強め、人々をその管理下におこうとする。国家の正体とはそういうものだ。それは人類の歴史が証明している。いくら外側の衣を替えたってNO.6はNO.6。何も変わらんさ。違うとすれば中枢に立つ人物、事実上のNO.6の支配者が愚かか知恵者か、それだけさ。愚かなら露骨に、知恵者なら巧妙に支配体制を確立していく。愚か者ならいずれは自壊もしていくが、なまじ知恵者なら、じわりじわりと己の手の内にNO.6の全てを掴みこんでしまう。本当に恐ろしいのは、そういうやつだろう。で?」
「……え」
「聖都市の再生に関わっている者は、どんなやつだ。きみの目から見て、愚かかね、知恵者かね」
「最後に一言。きみ、人間は変わるよ。きみの信じるその男だって変わるのさ。国家の中枢に立てば、人は必ず変わるのだ。変わらなければ、破滅する。覚えておくといい」