フィリップ・カーターの『骨の祭壇』です。本書の帯には「覆面作家なのに全米出版社が数億円で争奪戦」と銘打ってあるように、このフィリップ・カーター、"世界的に有名な作家"のペンネームだということしか解っていないようだ。ただ、エンターテイメントとしては大変面白く、よく出来た作品となっている。 冒頭、サンフランシスコで女ホームレスが殺害される。この物語は、1937年のシベリアからスタートする。本作の主人公は、女性弁護士ゾーイ・ドミトロフ。シベリアにあるといわれる骨の祭壇の秘密を巡って、謎の組織に命を狙われる。ここらあたりは、本当にこれでもかというほど、ジェットコースターで、読ませる。おまけに、骨の祭壇の秘密を追ううちに、ケネディの暗殺事件とモンロー死亡の真相にも突き当たる、というサービス満点の作品です。 不老不死の泉ともいわれる骨の祭壇について、ロシアの分子生物学者が極めて冷静な反応を見せる。引用しよう。
「いま思ったんだが」短い沈黙のあと、ニキティンは言った。「不老不死の泉などというものが本当に存在するとして、その存在が世間に知れたら恐ろしいことになりかねない。人工過剰、戦争、食糧不足…」体を震わせる。「人類は同じ過ちを繰り返してきた。救世主だと信じたものが、自分たちを破滅に追いやりかねない悪魔だったと判明する」確かにそのとおりですね。ちょっと寿命が伸びただけで、またたく間に高齢化社会になって苦労しているのですから。本書のなかで最も賢明な意見でした。