<裏表紙あらすじ> 舞台は、アパートの一室。別々の道を歩むことが決まった男女が最後の夜を徹し語り合う。初夏の風、木々の匂い、大きな柱時計、そしてあの男の後ろ姿――共有した過去の風景に少しずつ違和感が混じり始める。濃密な心理戦の果て、朝の光とともに訪れる真実とは。不思議な胸騒ぎと解放感が満ちる傑作長編! 限定された人物が、過去を回想して議論(?) して、真相を(?) 探る、という話です。 恩田陸さんだと、「木曜組曲」 (徳間文庫)がこのパターンでした。このとき5人。 この「木洩れ日に泳ぐ魚」 (文春文庫)は、たったの二人。 交互に二人の視点でつづられていきます。 これで長編を支えるというのは結構たいへんだと思うんですが、さすがは恩田陸さん、楽々と難題をクリアされています。 当事者が回想して、回答を見つけだす、という枠組みですから、データがあらかじめすべて提示されているわけではなく、読者から見れば、後出しじゃんけんオンパレード。なので、この種の作品の場合、読者の楽しみは自分で謎を解いていくことではなく、カードをめくっていくように、次々と明らかになる意外な事実の積み重ねを味わうことにあると思います。 この作品の場合、過去の秘められた事実が明らかになる、すなわち登場人物ふたりにとって意外な事実が明かされるということに加え、登場人物ふたりには既知でも読者にとって意外な事実が明らかになる部分もあり、この2種類の意外な事実の組み合わせで、どんどん引っ張っていきます。大がかりな仕掛けで派手な驚きを演出するのではなく、読者の興味をつなぎながら、仕掛け花火のように驚きが連鎖していくわけです。 その結果、冒頭読み始めたころの二人に対する印象と、読み終わった時点での二人に対する印象の落差も読みどころではないかと感じました。こんなに遠いところまで、読者を連れてきてくれたんだなぁ、と。 恩田陸の書いた、ガチガチの本格ミステリを読んでみたくなりました。書いてくれないものでしょうか?
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