発行から間が開いてしまいましたが、あの「ブラタモリ」のプロデューサー、尾関憲一さんが書かれたビジネスマン向けの、番組づくりを軸にヒットする企画の作り方を解説する本です。
ブラタモリ、私も毎週欠かさず見ていましたが、番組では、タモリさんとNHKの久保田アナウンサー、案内人の専門家の3人で、地形や川の流路といった地学的な視点や、地域に残る歴史的、文化的な視点で街を歩くというのが話題になっていましたよね。 地形的な視点としては、放送開始時点ではマニアだけの楽しみから一般的な趣向になるまさに夜明け前で、パソコンで数値地図を画像として見ることができたり、GPSロガーを手にしてウロウロする人が同時多発的に発生していて、街や、川の流域を理解する手段としてそれぞれが楽しんでいました。また、アースダイバー(こちら)で東京の地形の神話的思考が大変話題になりましたが、それが、テレビで具体的な楽しみ方が紹介されたというのがこの番組かと思います。 歴史的、文化的な視点での内容もそれぞれコアなファンがいて、建物や遺構、古いお店のことなどは知る人ぞ知るところも多かったかもしれませんが、これも紹介されました。 初回放送後の盛り上がりは皆さんがご存知の通りですが、このような企画がどのようにして実現できたか、そしてなぜ成功したのかについてが垣間見える内容になっています。 内容をちょっとバラしますと、尾関さんはブラタモリを作った人だから地形愛好家かというとそうではないと言っています。多趣味でいろいろなことに興味を持たれていて、その中から企画に生かしているということです。TV局の番組作りではたくさんの企画が出て、その中からわずかなものが実際の番組になるとのこと。他の「熱中時間 忙中"趣味"あり」や「東京カワイイTV」も作られたということですから地学一辺倒ではないですよね。多くの趣味を持ち、企画作りでは型にはまらず、ボツを恐れないことがヒットを生むコツなのかなぁと思いました。 流行を生む方法にはいくつかあって、ものすごいお金をかけて、いろいろなメディアで紹介して作るというものもあると思います。ただ費用をかけても一過性になるものも多いと思います。逆に黎明期に達しているジャンルが流行しだすと息の長いものになりますが、それをどう読むかはいろいろなところにアンテナを伸ばしておくことでしょう。その夜明け前のジャンルの読み方や、ヒットに繋がる企画の作り方、多くの人から協力を得る説明の仕方、ボツでも凹まない気の持ち方など詳細は、本書でどうぞ。 さて、肝心のブラタモリの作り方ですが、台本がちゃんとあるというのはNHKっぽいなぁと思いましたが、それはとりあえず置いといて出演者を視聴者寄りにするための仕掛けをしてある、というようなことを明かしています。つまり「考えるプロセスを楽しむ」という仕掛け。視聴者を巻き込んで街をバーチャルな探検をしてる感覚にさせる番組は、食べ歩きや旅行番組ではあったかも知れませんが、このような街を深く知るような文化的な番組では今までなかったかも知れません。その詳しい仕掛けも本書で。 私も観察会やまち歩きでフィールドに出ることが多く、参加者の皆さんには企画の大まかな趣旨とコース、主な場所の概要は説明するのですが、趣旨に大きく外れない程度に、最初に説明しないスポットの細かい説明や、生きものの説明は出てきてから説明します。時間的に限られていたりするので早めに答えを言ってしまうこともありますが、生きものの見分け方や種名の調べ方という点では考えるプロセスを楽しんでいるかも知れません(笑) あと、企画づくりとあまり関係なく、番組作り特有の問題かもしれませんが、本文を読んで思ったのは、情報の分かりやすさと正確さのバランスをどうするか、という点です。何を説明するにも、過不足のない説明の仕方は難しいところです。 確かに放送内容では、アレっと思うところがいくつかありましたが、おそらく分かりやすい説明を選んだためかと思います。番組を見た人はどう思ったでしょうか... どの程度分かりやすさを追究したかは本文から類推してみてください。 それから余談ではありますが、これはビジネス書によくあると思いますが、ところどころ太字になっているのがちょっと読みにくいというか文面が主張しすぎていて、本書の内容から言うと矛盾してるかなぁと(笑)。太字細字に惑わされないように読んでください。 (作者ご本人が読まれるかもしれませんが、あくまで主観ですので(笑)) サブカルチャー全盛のこの時代、どこにヒットの芽が出ているかは、もっと色々な事物を知ることが重要かもしれませんよ。↧