★ あらすじ
ティグリス・ユーフラテス両大河に挟まれた、現在で言えばイラク南部。この地で約七千年前に世界最古と考えられている都市文明が誕生した。それが「ウバイド文化」。
約五千年前にはシュメル諸都市の多くが内海から水路をひき、水利を活用した交易活動を行い、経済的に潤っていた。他方でこの地は石材・木材に乏しい。利用できるのは湿地に生い茂る葦やどこにでもある泥んこ・粘土。彼らは粘土板に葦で作った筆で文字を書き、絵を描いた。そのようにして彼らの神話は今に残り、伝わったのだ。
また、彼らは交易のために印鑑を利用した。粘土で円筒を作り、その側面に浮き彫りで絵を描いた。これを粘土板の上で転がし、"印刷"したのだ。そこには彼らの神話の物語が広がっていて、シュメルの神々が描かれているのだった。
シュメルの神々は天空、大気、冥界などの神性を持っていると共に、各都市の守護神としての役割も担っている。また、人びとを直接救済してくれる身近な「個人神」の存在もシュメル人たちは信じていて、神々には色々なランクがあった。
シュメルの神々が生まれ、女神たちが娶られ、身ごもった女神たちは多くの神を産んだ。人口(神口?)が増えたため、神々は食物を得るために働かねばならなくなった。運河を造ったり、浚渫したりの重労働が続いた。きつい仕事をさせられていた低位の神々の不満は特に大きかった。そのため創造神でもあるエンキ神は粘土をこね、人間を造らせた。そしてその人間たちに労働をさせることにした。
人間創造に成功した神々は宴会を催し、ビールを飲んだ。酔っ払ってさらに人間を造ったので、広げた手を曲げることができない人間、目に異常がある人間、足の不自由な人間、排尿が我慢できない人間、子どもを産めない女性、ペニスもヴァギナもない人間を造った。彼らは通常の労働ができなかったので、各々、王の従者、音楽の演奏者、宦官などの役割を与えた。
ギルガメシュの父はルガルバンダ神、母はニンスン女神だったが、ギルガメシュ自身は三分の二が神で、三分の一は人間で、ウルク市の暴君であった。人びとの訴えを聞き、アヌ神は野人エンキドゥを送り込み、ギルガメシュと対峙させる。が決着が付かない。やがてギルガメシュとエンキドゥは互いの力を認め、友情で結ばれることとなった。
彼らはそれから二人して各地に遠征する。杉の森の番人フンババや天の牡牛を退治し、その力を示した。だが、天の罰を受けエンキドゥは死んでしまう。盟友の死を目の当たりにしたギルガメシュは、自身の死を恐れて不死を求める旅に出る。しかし死の水(日本で言えば三途の川?)の船頭ウルシャナビから、人は死すべき定めにあると諭される。
その後、ギルガメシュは一旦、「若返りの草」を手に入れるのだが、ヘビに取られてしまった。(死すべき定めを負った、つまりはふつうの人間である)ギルガメシュはウルク市に戻り、城壁建設などに精を出すようになった(よい王になった)。
★ 目次
- 序章 粘土板に書かれた物語 シュメル神話の基礎知識
- 第一章 「創世神話」 人間はなぜ創造されたか
- 第二章 神々が送る大洪水の物語 伝説はシュメルにはじまる
- 第三章 「楽園神話」と農耕牧畜比較論
- 第四章 シュメル世界の規範「メ」と神々の聖船
- 第五章 エンリル神とニンリル女神の性的ゲーム 成人向け神話
- 第六章 大地母神と死んで復活する神 イナンナ女神冥界降下顛末記
- 第七章 大王エンメルカルと「小さな王」ルガルバンダ
- 第八章 「ギルガメシュ叙事詩」成立縁起 ビルガメシュ神の英雄譚
- 第九章 王による王のための神話 英雄神の怪物退治
- 終章 大河のほとりで シュメル人国家の終焉とその後の伝承
★ 感想
紀元前3,500年頃にはもう「都市」ができていて、印鑑(円筒印章)を使った契約活動が行われていたと言うのだから凄い。神話が形作られ始めたのはさらに遡るようだ。六千年前の人びとはもう、こんな想像の世界を築きあげていたのかと思うと驚かされる。
有名なギルガメッシュ王は、”
人は死すべき存在である”ことを悟り、その上でいかに生きていくかを語っている。哲学者を多く輩出した古代ギリシアが紀元前1,500年くらいの話だから、古代人は凄い。まあ、六千年前から今に至るまで、人の悩みや不安は変化がない、とも言えるが。
ノアの箱舟で有名な洪水伝説。世界各地で似た話があるようだがシュメル神話もその一つ。というか、
ヨーロッパにおける洪水伝説のルーツのようだ。ティグリス・ユーフラテス川に囲まれ、度重なる洪水で被害を受けつつも、肥沃な土地を提供してくれる自然の営みに恐怖と感謝両方の感情を抱いていた人びとだったのだろう。
洪水伝説そのものだけでなく、その他の神話でも恐ろしいもの・凄いものの表現として「洪水のような」というものが使われている。それだけ"身近な"ことだったのだろう、洪水が。
シュメール(シュメル)神話やギルガメッシュ(ビルガメッシュ)伝説などの名前は聞いたことがあるものの、どんな話なのかは全く知らなかった。自分の知識が数千年分過去に広がった感じ。キリスト教を初めとする、
ヨーロッパ文化のルーツを知った感じで、いい勉強になった。
入門書としておすすめの1冊です。
シュメル神話の世界―粘土板に刻まれた最古のロマン (中公新書)