<裏表紙あらすじ>
衆人環視の中、首相が爆殺された。そして犯人は俺だと報道されている。なぜだ? 何が起こっているんだ? 俺はやっていない――。首相暗殺の濡れ衣をきせられ、巨大な陰謀に包囲された青年・青柳雅春。暴力も辞さぬ追手集団からの、孤独な必死の逃走。行く手に見え隠れする謎の人物達。運命の鍵を握る古い記憶の断片とビートルズのメロディ。スリル炸裂超弩級エンタテインメント巨編。
第21回(2008) 山本周五郎賞受賞作で、第5回(2008年) 本屋大賞受賞作。
ちなみに、「このミステリーがすごい! 2009年版」第1位、2008年週刊文春ミステリーベスト10第2位です。
堺雅人主演で映画にもなっています。
今のところの、伊坂幸太郎の代表作といってもよい作品なのかもしれません。
解説に、伊坂幸太郎のインタビューからの引用があります。
「話を綺麗に畳んでおけば、確かに読者からの突っ込みは来ないから書いていて安心もできる。でも、書けば書くほど、話を畳む過程につまらなさを感じて葛藤があった。そこで、物語の風呂敷は広げるけれど、いかに畳まないまま楽しんでもらえるのか、それから、いかにそれでも読者に納得してもらえるのか、にはじめて挑戦したのが『ゴールデンスランバー』 という作品でした。」
こう作者は言っていますが、伊坂幸太郎らしい、見事な伏線回収の技は堪能できます。ああ、このエピソードはこういう風に使うんだ! という軽やかな驚きは、伊坂幸太郎作品を読む醍醐味で、引き続き楽しめます。
この『ゴールデンスランバー』 に続く作品群をまだ読んでいないので、「話を畳まない」ことがどういう風になっているのかわからないのですが、『ゴールデンスランバー』 について言うと、ラストがあまりカタルシスを感じられないものになっているのは、その表れなのでしょうか。
カタルシスを感じられない、とは言いましたが、この物語の設定、テーマ自体がカタルシスを感じにくいものですし、巨大な陰謀に巻き込まれた青年、という構図からすれば、ある意味立派なカタルシスともいえるラストという解釈もできそうです。
畳む、畳まないというよりは、主人公である青柳雅春をめぐる部分以外については、あえて細かく触れていないため、クリアにしていないところがポイントなのかもしれません。
もともと伊坂幸太郎の作品世界は、現実とは少し違った世界ですから(たとえば、この作品では、首相が公選制で選ばれます)、現実的に見えてもどことなく浮遊感漂うところも魅力だと思っていますので、ストーリーの主旋律に焦点を絞って、あえて説明しない部分が広くなっていくことにはあまり抵抗を感じません。このあたりはバランスが難しいだろうな、と思うので、伊坂幸太郎の筆さばきの妙が生きてくると思います。
ということで、今回も楽しく読み終わりました。
次の作品が楽しみです。
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