リン・シェール/著 高月園子/訳
出版社名 : 太田出版(ヒストリカル・スタディーズ 05)
出版年月 : 2013年4月
ISBNコード : 978-4-7783-1366-1
税込価格 : 2,520円
頁数・縦 : 266p・19cm
■「泳ぎ」の薀蓄
『なぜ人は走るのか』(トル・ゴタス著/楡井浩一訳、筑摩書房、2011)の水泳板。いや、本人が参加したOWS(オープン・ウォーター・スイミング)、ヘレポントス横断泳をドキュメンタリー的に綴る手法は、『Born to Run』(クリストファー・マクドゥーガル著/近藤隆文訳、日本放送出版協会、2010)に近いか。
いずれにしても、「泳ぐ」ことをテーマに、様々な人物への取材、文献からの引用、歴史上のエピソードを薀蓄たっぷりに綴ったエッセーである。
【目次】
1 飛び込む
2 ウォーターベイビー
3 水を離れた魚
4 ストローク
5 高速レーン
6 流れのままに
7 流線形
8 沈むか、泳ぐか
9 水泳術
10 泳げ
【著者】
シェール,リン Sherr, Lynn
放送ジャーナリスト、作家。30年以上、ABCニュースの記者として活躍。拒食症をテーマにしたドキュメンタリー番組制作において、アメリカ放送界で最高の栄誉とされるジョージ・フォスター・ピーボディ賞を共同受賞した。著書多数。『なぜ人間は泳ぐのか?―水泳をめぐる歴史、現在、未来』は“ワシントンポスト”や“ニューヨークタイムズ”など多くのメディアに絶賛を浴び、“エコノミスト”による「2012年ブック・オブ・ザ・イヤー」に選出された。
高月 園子 (タカツキ ソノコ)
翻訳家、エッセイスト。東京女子大学文理学部卒業。
【抜書】
●パーフェクト(p68)
〔水泳はすべての大きな筋肉群を使うリズミックでダイナミックな運動だ。それは無駄のない筋肉量を形成し、柔軟性を増進する。すべての有酸素運動がこういった効果の多くをもたらすのは事実だが、最近の研究によると、スイマーはすべての心臓数値においてジョガーやウォーカーに勝っていた。高齢化の国にとってさらに重要なのは、プールでは骨棘(骨にできる突起物で、関節の変化を引き起こす)の不快感の訴えを耳にしないことだ。「水泳は地球上で最もパーフェクトに近いスポーツである」とスイム・フィットネスの普及と教育の草分け的存在であるジェーン・カッツ医師は書いている。
映画スターのエスター・ウィリアムズは、「水泳は産湯から人生最後の入浴まで、怪我をせずに行うことのできる唯一の運動です。水中では重量も年齢も存在しません」とよく言っていた。膝が歩道に叩きつけられることもない。関節がボールや壁にぶつかることもない。浮力がわたしたちの骨組みのいちばん脆弱な部分を守ってくれる。〕
●イルカ(p125)
ジョンズ・ホプキンス大学機械工学科のラジャ・ミッタル博士。オリンピック選手によるドルフィンキックの使い方についての研究。
イルカは水中で60%の効率で動ける。人間は11~12%。
イルカの効率の良さは、美しい流線型の体型によるところが大き。
「彼ら(イルカ)が泳いでいる時のパワーは、彼らの筋力をはるかに超えているようだ。魚の多くとクジラ目、なかでもイルカは、毛穴からある種の粘液を出しています。薄い粘液層です」
粘液層……高分子抗力減少をもたらす。海軍とDARP(国防総省国防高等研究事業局)の両方が何百億ドルもかけて、海上船舶への応用の道を探っている。
●パーソナリティ障害(p128)
『ニューヨーク・タイムズ』のスポーツ記者カレン・クルース。自身も元水泳選手。
「スイマーというものは、最も精神的に安定した、バランスのいい正常な人間だろうと思って大学に入学しました。ところが、目にしたのはあまりに多くのパーソナル障害でした。勝つことが普通のことではないということを理解するには、わたしの人生経験は足りなかったのね。でも今、大人になって、来る日も来る日もアスリートたちを取材していると、トップレベルのアスリートでバランスの取れた人間だといえる人には、ほんとうにめったに出会えない。たいてい彼らの人生には何か欠けたものがあって、スポーツの功績でそれを埋めようとしている。以前、わたしは、自分が目指していたようなスイマーになれなかったことを、とても悔いていました。でも今は、ただわたしには、勝つには十分な障害がなかったのだと考えています」
(2013/7/21)KG
〈この本の詳細〉
honto: http://honto.jp/netstore/pd-book_25565551.html
e-hon: http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000032906255