「多摩川 境界の風景」 著者:三輪修三 発行:有隣堂 多摩川は山梨県、東京都、神奈川県にわたって流れる川で、 下流では東京都と神奈川県の県境となっている。 本書は多摩川の風土や、多摩川をめぐる人間の営みの歴史を つぶさに記載しているが、その根底にあるのは川のもつ境界性であろう。 日蓮は、釈迦が霊鷲山で八年法華経を説いた後、 艮(うしとら)の方向にある跋提河のほとりの工匠の家で入滅したことになぞらえ、 自らも九年法華経を研鑽した身延の艮にあたる多摩川のほとりの工匠の家で 入寂することを予言していた。 果たして予言は的中し、日蓮は工匠の家でその生涯を閉じたという。 釈迦の入滅の様子は「釈迦涅槃図」に描かれている。 中段に釈迦、上段が天上界、下段が群集と三段階の画面構図となっており、 跋提河が中段と上段の境に描かれている。 いつからか、日蓮の入滅の様子をあらわすものとして 「釈迦涅槃図」とほぼ同じ構図の聖人入滅図が描かれるようになり、 中段と上段の境には、多摩川が描かれた。 また、江戸時代に流行した伊勢神宮への旅の際、家人らが見送ることを 「サカオクリ」と呼ぶ所が多く、多摩川沿いの村では渡船場がサカオクリ、 すなわち、再会できないかもしれない旅人との最後の別れの場となったのだそうだ。 現在は多数の橋がかかり、様々な治水工事も施されているが、 元来、多摩川は現世と来世の境、日常と非日常の境であったことを思うと 川の向こうの風景も違って見えるような気がした。
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