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これまで生きてきた中で、これほど夜明けを恐れた夜はなかった。もし、ニューリンを留めるための方法を何も思いつかなかったら、彼を永遠に失ってしまうのだ。
既に、父と従兄へ真実を話し、彼らに理解してもらうための貴重な時間を無駄にしていた。
「鉱山から逃げただって?」
従兄が信じられないといった様子で頭を振り、父は声を荒げた。
「ニューリンは良い若者だ。だが、駐屯地の近くであるここに彼が住むのはとても危険だ。もしハンの奴らに見つかったら農場を失うだけでは済まない。私は鉱山へ連れて行かれるだろうし、お前の身にどんなことが起こるかは考えるだけでも反吐が出る。お前が彼を愛しているのは分かっているんだ。だが、彼はここにはいられないのだよ」
「もし彼がここにいられないなら、私もいられない!」
叫ぶと共にソーシャは母屋から走り去ったが、父の不安が根拠のないものではないことを理解していた。
しかし、今までハンがホグヒルへ注意を向けたことはない。もし魔法使いが彼らの注意を引くことなくウィンドルフォードの外れでひっそりと暮らすことが出来るのなら、おそらく、逃亡した鉱山労働者だって同じように暮らせるはずだ。
魔法使い! それだわ!
ソーシャはランバードのコテージへ急いだ。
「ソーシャ?何かあったの?」
慌ただしいノックに応えて出てきたモーラは、いつもより警戒した様子で友人を見た。
「……あなたの夫のこと?」
「どうして知ってるの?」
「どんなに愚かでも、何かおかしいって気がつくわよ」
モーラは暖炉のそばにある椅子へ彼女を座らせる。
「でも、あなたは愛に目が眩んでしまった……。何が起こったのか教えて。彼はあなたを傷つけたのね」
言いながら、彼女は駆けつけてきたランバードを呼んだ。
「彼は絶対に私を傷つけないわ。そうじゃないのよ」
以前、ソーシャは彼女を信じるようにニューリンへ求めた。今、彼女は友人を信じなければならない。彼女を助けることのできる力を持っているかもしれない、ただ一人の友人だった。
ソーシャは、どんどん傾いていく太陽を意識しながら、一部始終を言葉に詰まりながら話した。
「お願いです、ランバート。あなたは力のある魔法使いだわ。私達を助けてくださいますか? ニューリンは本当に良い人間なの。彼はちゃんとした人生を送る機会を与えられるに相応しい人だし、私は、彼を失うなんて考えられない!」
ランバードがモーラを手招きした。二人が静かに囁きを交わすと、モーラは薬や魔法薬を調合しているコテージ奥の部屋へと急いで向かい、ランバードはソーシャの傍に膝をついた。
「もっと早くに教えてくれていたらと思うよ。ニューリンのような男が近くに住んでいると不安になる。彼はモーラと私に危険をもたらす可能性がある。だが、君はこれまでモーラの誠実で忠実な友人だった。その友情のために、できることをしよう」
しばらくの後、ランバードと二人の女性は、モーラが調合した特別な酒を手に、ホグヒルへ急いで引き返した。
「それで、我々の問題について聞いたから来たのか、ランバード?」
ソーシャの父が怒りではなく、悲しみに暮れたように視線を向けた。
「あいつがうちの納屋に隠れていた時に……」と、ジャスが呟いて続けた。
「もし、ハンの奴らがあの男を見つけていたとしたら……」
いつも血色の良い彼の顔は真っ青になっていた。
「これを飲みなさい」
ランバードが二人のカップへモーラの酒を注いだ。
「神経を落ちつけてくれるはずだ」
父と従兄が酒に酔っ払うと、ランバードは日常のあらゆることを話し始めた。それは、天気のことや、農作物のことや、ジャスのウィンドルフォードまでの旅のことだったりした。そして、「あなた達を訪問するのは楽しかったよ」と、最後に彼は言った。
「でも、私とモーラは夕飯を家で食べねばならない」
「またな、ランバード」
まるで、父には何も心配事などなかったかのようだった。従兄もまた、同様だった。
「また来てくれよ」
農場の外に出たソーシャは客人達を見た。
「あれは何だったの?」
「色々な成分とマドルワート(麦芽汁)を混ぜた、かなり強い酒だ」
と、ランバードが口を開いた。
「彼ら二人とも、今日、何が起こったのかを覚えていないだろう。それに、彼らは君が教えることをそのまま信じる状態になっている。だから、彼ら両方が満足できる話を考えればよい。頑張りたまえ。モーラと私は君を裏切らないよ」
ソーシャは、彼女の中で荒れ狂う安堵と感謝の気持ちでいっぱいで、息ができるのが不思議なくらいだった。
「少し待っててもらえる?」
二人に懇願した。
「ニューリンもあなた達にお礼を言いたいと思うの」
そして、彼女は納屋へ飛び込み、彼を呼んだ。
「大丈夫なの。ランバードが助けてくれたの。もう、納屋から出てこられるし、ここにいることができるの!」
少しの間、何も動きがなかった。
恐怖が彼女の中に芽生える。
その時、干し草の中からニューリンが姿を見せ、その腕へと導いた。
「本当に?」
彼女はランバードがしてくれたことを説明した。
「ねえ、来て。友人にお礼を言わなきゃ」
20回以上は感謝の言葉を伝えただろう頃、ランバードが口を開いた。
「まだ酒がいくらか残っている。ニューリン、もし君が望むなら、持っていると良い。それは、鉱山での最悪の記憶を消してくれるだろう」
ニューリンはしばらくの間、モーラの手の中にあるフラスコを凝視した。まるで今まで生きてきた中でこれほど切望したことがなかったかのように。
それから、頭を振った。
「ありがとう。でも、鉱山でのことを忘れたくないんだ。これから先、記憶を耐えることが辛い時があったとしても……だからこそ、その記憶が俺に大切なものを教えてくれるから」
彼の発言に好意的な様子で、ランバードが頷いた。
「結局のところ、ソーシャは賢明な選択をしたようだ。一つだけやり残したことがあるがね」
当惑する二人に彼が続ける。
「もちろん、君たち二人が正式に婚姻することだ。以前、恋人たちがエルダーウェイズの名のもとでの婚姻を求めてきた時、私はベッチウッドの森のそう深くない所にある空き地を使ったことがある」
「どれくらいでできるの?」と、ソーシャが尋ねると、「暁の頃は、結婚に相応しい時刻だと思うがね」と、ランバードが返した。
「君が明日の朝、日の出前にモーラを訪ねてくれば、君たちはギヴァーに祝福された魂の伴侶として、朝食を食べることができるだろうね」
* * *
そうして、森の空き地でソーシャが頭に伝統的な花冠をのせ、ニューリンが同じく頭に葉で作った冠をのせている姿を、昇り始めた太陽へ見せることとなった。
二人は今一度、互いに自身を差し出し、感謝と喜びに満ちた心を受け取った。今回はランバードとモーラが彼らの結びつきにギーヴァの恵みがもたらされることを祈った。
儀式の最後、花嫁が結婚式の花輪を空中に投げ、それがバラバラになったところを、式に出席している未婚の女性たちが争奪するのが慣習だった。――そうすることで、彼らは真実の愛を見つけるだろうと言われている。
その慣習の代わりに、ソーシャはゆっくりと花嫁の花輪を持ち上げ、モーラの頭にのせるとその頬にキスをした。
「私の幸運と同じように、いつの日か、あなたが素晴らしい旦那さまと共にギヴァーの祝福を受けることを願ってる」
ソーシャの願いに、モーラは顔を赤らめながら感謝した。だが、ランバードは青ざめて心配そうな様子だった。それとも、そう見えたのは勘違いだったのかもしれない。
.「いつか……」
周囲を見回しながら、魔法使いは呟いた。
「密かに式を挙げるのではなく、公明正大にエルダーウェイズのもとに結ばれる日があらんことを……」
そんなこと、起こり得るはずがない。ソーシャはそう思った。
古い言い伝えのように、「眠れる王」が征服者から彼の民を開放するために戻ってくる、その日まで。
でも、もし、そんな日が来るならば……。
混沌としたこの時代。多くの闇の中、私は明るく平和な安息の地となる場所を作ろう。
「秘密の儀式はもう十分だ」
今まで彼女から離れようとしたことなど一度もなかったかのように、ニューリンが花嫁を両腕で包みこんだ。
「俺とソーシャには秘密なんか、これ以上いらない」
「その通りだわ。私があなたをどれほど愛しているか」
ソーシャは、甘く満ち足りた気分で息をつくと、彼に抱擁を返した。
「そして、一緒にいることが、どれほど幸せかも……」
おわり
ニュアンスが難しい所がいくつもあったので、微妙な感じの訳になってる所がたくさんあります。前後の脈絡から何とかこじつけて無理な意訳をしているところもいっぱいです。最後の会話も難しかった。翻訳者さんってすごいと改めて思いました。
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