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第九百二話 異変

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 異変を感じたのは一週間ほど前だ。書斎机の椅子に置いてあって長年愛用してきたクッションが消失した。そして代わりにやや堅い座り心地の低反発座布団が現れた。洗面鏡の棚に置いてあったT型髭そりが見たこともない新しい姿のそれに変わった。風呂に入ると、手桶と風呂椅子が見たことのないものに変わっていた。 なんなのだ。俺が愛用しているものが次々と姿を変えていく。一体どうなっているんだ。この家に何かが起きている。俺の預かり知らないところで、俺の関知しないことが起きはじめている。これは何かの前触れなのだろうか。俺は考えた。いや、そんなはずはない。いまの俺は仕事もプライベートも、何もかもが安定して充実している。何か予測できないことが起きるなんてことは想像すらできない。  今週に入って、さらに驚くようなことが起きた。いつもくつろいでテレビを見ている愛用の赤いソファが無くなっている。その代わりに少し大きめで上品なアイボリーのソファが鎮座しているのだ。なんだこれは? あの赤いソファは相当に身体に馴染んでいたんだぞ。ダイニングテーブルを見ると、そこでも異変は起きていた。テーブルそのものは変わりないが、そこに並んでいる椅子だ。昨日まではスチールのパイプ椅子だった。前の椅子が壊れてしまってから代用に使いだしたものが定番になってしまったといういわくつきの椅子だ。それが消えて、以前使っていたような木の椅子が四客並んでいるのだ。これはまぁ、悪くはない。そもそもパイプ椅子なんて代用品だったのだからな。しかし、なぜ急にこんなことが我が家に起きているのか、そちらの方が不安だった。  俺は思わず声を出してしまった。すると俺の声に答える声があった。 あら、来週にはともだちが訪ねてくるから、いろいろ買い換えたわ。ボーナスも入ったことですし。いいでしょ?」  妻は俺に相談もなくいろいろと購入してしまうのだ。昔から。

                                                   了


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